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「桐雨(きりゅう)ちゃんとは連絡とってる?」
「時々メールが来るけど、頻度は減ったよ。あっちもなんか忙しいみたいだ」
時差もあるので、即レスなんて事も出来ず。時間差が出来てしまうと、なんだか文通みたいな感覚になっていくのだが。
「ミナに関して言うなら、最後に会ってから六年は経ってるからね。今はどうなってるのかさえ判らないんだ」
不思議でもなく、あいつがどういう見た目なのかも忘れてしまいそうになる。そこまで認識が断絶した状況で、再会した時に同一人物と認識できるのかは怪しいものだった。
「大丈夫だよ。人間なんてすぐに判別できるから」
包は、人間は変わらないとは言わなかった。色々あるだろうし、一番変化した人間である僕を前にそんなことは言えないのだろうとは判るけれど。
「で、そんなこと訊いて何になるんだ?」
「いや、気になっただけ。それに、あの子は学期外でも帰ってこないんだよね?」
「そういえばそうだな。向こうは九月始まりだって聞いてたし、そろそろ始業のようだけど」
「今年も何も無かったのか……」
仁くんの興味は移っているのになあ、とよく判らない呟きを零している。
「何の話だ?」
「え? 仁くんの気になる人の話かな、涼ちゃんに聞いたんだけど」
「あいつは何を話しているんだ。そんな奴がいるわけが、」
「断溝さんっていうんでしょ?」
……………………………………………………。
悪い意味で有名なあの女子に対して、どうにも放っておけない感情があるのだけれど。接点自体がなく、踏み入ることが出来ないでいるのだ。
「悪い意味?」
「犯罪とかじゃないぜ、もっと別の問題らしい」
それを調べようとすると、舎人が邪魔を入れてくるのが不審だったりする。あいつもなんか一枚噛んでそうなんだよな。
「断溝っていうと、名古屋の名家だよね。なんで陽山にその家があるのかがよく判らないけれどね」
「分家筋だろ? 有名どころは大体複数の同じ名前の血筋を持ってるらしいって、母さんに聞いたことあるから」
白羽家自体も、どこかと繋がりがあるらしいとは言っていたけれど、それが何なのかまでを知ることは出来ないでいる。
「まあ、縁があればどこかで関わるとは思うけどね」
その前にその子が死んでしまわない限りは、だけども。
「そうだろうね。仁くんは毎回不穏なこと言うのが瑕だよね」
「可能性の話だろうが。色んな事があるんだから」
解っているけどね、と包は返す。解った上で言って欲しくはないんだよ、と続けてきた。
「嫌なことは考えるだけ無駄だもの。聞いたことない? リスクの殆どは杞憂に過ぎないっていう話。心配事は九割以上起きないことを想定しているだけ」
「聞いたことはないけど。そうなのかな」
「そうだよ。世界は案外平穏なものだよ? 母数が大きいから危険性が目立つだけで」
「ふうん……。その割には僕の人生が平穏じゃないのは何でだろうな」
「…………………………………………」
黙られた。
包には詳しい話をしたことはないけれど、ある理由から入院していた時に度々見舞いに来るので、何をしているのかは大体知れているはずだ。
「君が早死にしちゃあ駄目だよ?」
「わかってるよ。気をつける」
それにしても、と包は続ける。
「仁くんは結構女の子に好かれるのかな? そんな風に思えるけれど」
「気のせいだろ」
「さらりと返せる辺りが本物だね」
いや、意味分からない。首を捻る僕に対して、自覚がないのかーと呟いているが。自覚があってやってたらそれはそれで怖いものがある気がすると思う。
「昨日、大通りで歩いてたの見てたけど、あの子はどういう人かな」
「……………………。ニアはそもそも人間ですらないんだよな」
真祖という存在はどう説明すれば良いのかはわからないけれど、少なくとも人間じゃないということだけは言えるので、そのまま言ってみた。
「はい?」
案の定、聞き返された。
「だから、人間じゃないの。覇久磨家って知ってる? そこの始祖だってさ」
「うーん。こういう世界で生きているとばっさりと嘘だと言えないのが哀しいところだね」
「信じないのかよ」
「いや、仁くんが無為に嘘吐くことないから、信じないことはないんだけどさ」
「けど、何?」
「君は海奈さん以上にぶっ飛んでるよ」
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