プロローグ

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プロローグ

 東京都の吉祥寺にある卯野花高校。ここはあることが有名な高校だ。 「あ、猫だ」  体育館へ向かう途中、前方を歩いているクラスの女子が渡り廊下にいる黒猫を指さした。 「あの猫ってよくこの辺にいるよね」 「猫についていくと不思議なことが起こるんだっけ」 「なんか落とし物を見つけてくれるらしいよ」 「あ、それ聞いたことある! この学校の七不思議は他と違うって、前にネットで話題になってたんでしょ。すごいよねぇ」  学校の七不思議といえば、普通は真夜中の音楽室でピアノの演奏が聞こえるものや、美術室のモナリザが動くといったものだ。  けれど、卯野花高校のは誰かを怖がらせるような七不思議ではなく、〝誰かのためになる七不思議〟があると言われている。  でも、そんなもの迷信でしかない。  ただ、他にもこの高校の変わっている部分があるとしたら、気づけば猫がいるということ。  校門の前にも、校舎に向かう途中にある大きな桜の木の近くにも、体育館へ向かう剥き出しの渡り廊下にも、至る所に猫がいる。  昔怪我をした猫を見かけた生徒たちが校長先生たちに頼み込んで、しばらく学校で面倒を診ていたらしい。  その後、怪我が治った猫が、お世話をしていた生徒のもとに失くしたはずの鈴の音のストラップを届けたり、校長や教師たちの探しものを見つけてくれることがあり、まるで恩返しをしてくれたそうだ。  校長は猫に感謝し、追い出すことなく、むしろ可愛がるようになり、いつのまにか学校内にはたくさんの猫が住み着くようになったそうだ。  そして、妙な七不思議が生まれた。十六時になった瞬間、ひとりで廊下を歩いていると不思議な猫に出会う。その猫についていくと、大事な落とし物を見つけてくれるのだとか。 『なあ、奈央。お前さ、なんで——』  もしも私にも落とし物があるとしたら、それはきっと物ではなくて感情なのかもしれない。溢れ出てこないように蓋をして、そしていつのまにかどこかへ落としてしまった。  そんな脆くて虚しくて、眩い感情。
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