偽りの感情

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インターホンを押す手が震える。ここに来るまでは乃亜さんに私の罪の告白をしたくて仕方がなかったのだけど、いざ言葉にしようと思うと躊躇してしまう。 明日は月曜日で乃亜さんは仕事だし、今日は用事を済ませるために外出してるかもしれない。もし出なかったらそのまま帰ろう。もし乃亜さんがインターホンを押しても出なければ潔くこの罪はずっと私の中だけで完結させよう。 そう思い震える手でインターホンを押した。左手を手首に添えないと私の右手はまともに動いてはくれないほどに緊張で震えていた。 心の表面では乃亜さんが家に居ることを願いながら、心の中心部分では乃亜さんが留守にしていることを願う。 「はい。」と家の中から在宅を知らせる声がする。このどこか人を包み込み安心させるような声は間違いなく乃亜さんの声である。私は震えた。安心するのに震える奇妙な気持ちで半年ぶりに乃亜さんの声を聞いた。乃亜さんの声を聞くのは大学の卒業式以来だった。 「笹野です……」 と恐る恐る自分の名前を告げる。インターホン越しだから乃亜さんには見えていないけど笑顔を作って。 「あら、里奈ちゃん、久しぶりね。すぐ開けるからちょっと待っててね。」 そう言って開かれた家のドアから出てきた乃亜さんは相変わらず人の心を丸ごと包み込めそうな笑顔をこちらに向ける。無条件に全てを赦してくれそうなその天然物の笑顔は私の作り物の笑顔のメッキなんて簡単に剥がしてしまう。私は再び自分にスイッチを入れて笑顔が崩れないようにした。 「とりあえず中に入りましょうか。」 そう言って私の手を引いて家の中へと案内される。単身者向けの小さな部屋は乃亜さんの落ち着く匂いでいっぱいだった。外の排気ガスが充満したような場所とは全然違う空気が流れているように思えた。
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