偽りの感情

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乃亜さんに案内されるがままに作り笑顔のまま席に着く私の背中では乃亜さんが台所でお湯を沸かしていた。 「ミルクココアよ。悩みがあるときにはこれを飲むのが一番いいのよ。心が落ち着くから。」 そう言って視線を下げると顔が暖かい湯気に包まれる。ほんのり甘い匂いがした。 体は甘くて暖かい匂いに包まれているのに心は暗くて冷たい。この感情をどうすればいいのか分からず、ただじっとコップの中の暖かい液体に目をやると混ざり切っていないミルクが黒いココアの上を所在なく漂っていた。 「飲んでいいのよ。」 乃亜さんは微笑み、先にミルクココアに口をつける。乃亜さんが飲んでいるところを見るとミルクココアがとても高貴な飲み物に思えてくる。私も続いて1口飲むと口の中にやはり暖かい香りが広がった。誰が淹れても同じような味になるはずなのに乃亜さんが淹れたミルクココアは特別甘くて、特別暖かく感じた。無意識に「美味しい。」と絞り出すような声が出た。 私と乃亜さんはお互いに何も話出さなかった。乃亜さんは多分私が話し出すのを待ってくれている。でも私は何からどうやってどこまで話せばいいのかわからない。そんな私のことを乃亜さんはずっと暖かい微笑みで見守ってくれている。部屋の中には時計の音だけが鳴り響いていた。
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