偽りの感情

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ドアを開けて外に出ると乃亜さんの部屋の中よりもずっと澄んだ空気がたくさん肺に入ってきてほんの少しだけ気分が楽になった。暖かく澄んで見えた乃亜さんの部屋が淀んで見えたので下を向いた。乃亜さんも、乃亜さんの部屋も直視してしまうと良からぬものが視界に入ってしまいそうで怖かった。 「今日は話を聞いて頂いてありがとうございました。」 「もう楽になった?」 「え、あ、えーっと、はい……」 自分でもびっくりするくらいわかりやすく動揺した声を作ってしまった。そうすれば乃亜さんは私のことを心配してくれるかもしれない。もう一度話すチャンスを与えてくれるかもしれない。 「それならよかったわ。」 けれど乃亜さんはそんな私の態度を無かったことにした。私に手は差し伸べてくれなかった。 「あ、またなんかあったら来ていいですk」 「もう来ないで。」 私が聞き終わる前に食い気味に返ってきた声に私は本心から驚き「え……」と声を出す。乃亜さんの口から今まで聞いたことのないような冷たい声が私を刺した。私の視界にあった乃亜さんの家の玄関がユラユラ揺れる。玄関に水滴がぽとりぽとりと落ちていく。これは紛れも無い本物の涙だった。 「あ、違うの。今ちょっと仕事が忙しくてちょっと申し訳ないけど会ってる時間がないのよ……」 乃亜さんは必死にわざとらしく取り繕っていた。私は声を出せず床を見たまま会釈だけして乃亜さんの家を後にした。背中を向けたまま歩き出した。乃亜さんがドアを閉める音は聞こえなかった。きっと乃亜さんは惨めな私の背中を見つめているのだろう……
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