普通にしかなれない少女の話

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パズルみたいに、バラバラな記憶。  ベンチと、炭酸飲料。  高校生の少女がずっと後悔していたことがある。大好きだった彼に自分の気持ちを伝えられなかったことだ。 ――やり直したいと思っている事をやり直せるとしたら、お前はどうする?  裏返しの猫が大人になった彼女に笑いかけると、彼女は彼とベンチに座って炭酸飲料を飲んだ文化祭の日を思い浮かべた。  裏返しの猫のおかげで過去に戻った彼女は高校生の時には気づけなかった、彼が彼女へ抱いていた想いを確認するという新たな可能性を現実にした。  ピアノと、楽譜。  大学生の青年がずっと後悔していたことがある。ストリートピアノの演奏中に事故にあった少女を助けられなかったことだ。 ――やり直したいと思っている事をやり直せるとしたら、お前はどうする?  裏返しの猫が社会に出て働きだした青年に笑いかけると、青年はストリートピアノで少女が演奏をしていた日を思い浮かべた。  少女に近づくために必死になってピアノの練習を続けていた青年は、少女がピアノを弾く前に自分から演奏をはじめ、少女を事故から救うという新たな可能性を現実にした。  それらの記憶が夢にしては――明晰夢の類を見たことがない姫瑠が見る夢にしては――あまりにもはっきりしていたから、それらが鮮明に示すのは、裏返しの猫が、姫瑠には想像もつかない次元の力を有しているという事だった。  そのパズルに、たった一つ埋まらない隙間があるとすれば、それは――。  蛍風姫瑠は後悔しているあの日をやり直すのか否か、という事だけである。                  ※
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