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第3話「バンド組んでみた」
避暑地、避暑の為に訪れる場所。標高の高い場所なので夏でも涼しいらしい…、があまりにも暑い! 御代田という駅を降りてからというものの、周りは崖やら森やら建物らしいものは一つもない。そんな場所に綺麗に敷かれたアスファルトの上は、照り付ける太陽が反射し気温をぐんぐん上昇させる。まだまだ目的地には辿り着かない。流れ出る汗、一歩踏み出す度に体力は大きく奪われていく。
僕たちは親父の会社で使っている別荘と謳った一室を目指していた。現在、ほとんど行かないので売りに出しているが、なかなか買い手がいなく、勿体無いから友達と泊まってくれば、との両親の提案だった。僕は幼い頃の記憶を辿りみんなを誘導するが、すぐ近くのはずなのに見つからない。それもそうだ昔は車で行っていたのだから。電車で来た場合の道など知るわけがない。タクシーに乗らなくても徒歩で着くと聞いていたがまったく全くつく気配がなかった。たった一つの頼りは親に渡された適当な地図だけ。石原も八田も岩田もずっと文句を言い続ける。
「暑ちいよー、タケルまだ着かねえのかよ、ちょっと休もうぜ」
岩田はかなりへばっている様子だ。
「またタケルマジックにハマったよ! だからはじめからタクればよかったんだよ!」
初めは歩くことに賛成していた石原もこの有様だ。
「タクシー見つかったら乗ろうぜ」
言いつつも長い時間、タクシーを発見することが出来ない。そもそも、一般の車すら走っていない。
「そういえば知ってる? 軽井沢ってカナダ人が開拓したらしいぜ」
僕は得意気に言った。
「軽井沢じゃないじゃん。来たのは御代田じゃん」
八田が反発する。そう、目的地は軽井沢というより軽井沢に近いというだけだった。でも似たようなもんだろ。
「あっみんな、ここだよここ!」やっと着いた…。
散々歩き続け、やっとの思いで辿りつく事が出来た。もう体中が汗だくだ。着いたその目的地はやはり避暑地という事だが、まったく涼しくはなかったが、寒々しく見える場所だった。人の気配はまったくなく、そこだけ世の中から忘れ去られ、時が止まったような空間と化している。そんな寒々しい光景の中、いつの間にか僕等は暑さを忘れていた。部屋に入るとゴミだらけで、更に冷蔵庫の中は腐っているものばかり。まるで、両親に騙されて掃除に来させられたような気がした。みんなは文句を言いながらもで大事な寝床なので手分けをして掃除を始める。
落ち着いた頃にはも陽が暮れて、夕飯は自炊するはずだったがカップラーメンで済ませた。そして夜になり男四人、することなんて何もないので岩田が持ってきた《火垂るの墓》を観てから寝た。翌日は昨日とは打って変わって曇り空だったが、別荘の敷地内にある合同で使うような寂びれたプールで泳ぐことにした。無料と聞いていたが金を取られた。再び僕はみんなの攻撃の的となった。
陽が隠れた上に気温が低いため、寒くなりすぐに引揚げた。仕方がなく街へ出てみることにしたがつまらない土産物屋しかない。
その夜、僕らは色々な話をした。石原の彼女話や、八田のバイトでの出会い話、岩田の恋が終った話、僕の音楽の話など、僕らは色々な話をした。
「みんな、妖怪って実際にいると思うか?」
僕はみんなに尋ねた。
「妖怪と言えばさ、こんな話あるんだぜ」
どうせ誰も信じないだろうと思いながらも切り出してみたが、いつの間にか怪談話になってしまい夜は更けていったのだった。夜が明け帰宅の準備がはじまる。大量に残った食材を全て炒めたものを回し食いをし、急いで別荘を後にした。もう二度と来ることはないだろう。とみんなも思ったであろう。帰りの電車内で八田が秋に開かれる文化祭の話をしてきた。
「うちのクラス、喫茶店にするらしいぜ」
「ガハハ、下らねぇ~」
岩田は笑ったが、石原が少し考えた顔を見せてから口を開いた。
「いいじゃん! いいじゃんそれ、女の子誘うのにいい口実じゃーん!」
物凄く興奮している。
なんだかそれを聞くと僕も興奮してきた。
「そんなことよりもさ、うちらも何かやろうせ」
「だから、三人でコントやるんだろ。台本作ったぜ」僕は岩田へ答えた。
「なんだ? あのアホみたいなコント、マジでやるのかよ? ガハハ」
八田は人を小ばかにするように笑う。
「真面目にやるコントがあるかっての!」
「あんなのやりたくねえよ~」
岩田は激しく抗議してきたので、「じゃあ、他になんかあるか?」と逆に聞くと、考えている様子だった。その影で、僕は実は弾き語りで文化祭のステージに立つことを密かに考えていた。その姿を想像した、僕はそこにある小さな彼らとの世界から外れ、外から流れる風が心地よく感じられた。
楽しかったのかどうなのか、よくわからない旅行だったが、都会の喧騒から離れただけで僕はそれなりに充実感があった。言いたい事を好き放題言い合える親友と呼べる奴らとの旅行は楽しい。
路上に転がる蝉の死がいが目につく度に夏休みは終わりに近づいていることを気づかせてくれるが、残暑は厳しい。
残りの休みは再び石原と岩田の3人でのCDコーナーでのバイトで明け暮れた。今日もCDコーナーから浜田省吾のアルバムを一枚買って帰った。今回手に入れたのは《PROMISED LAND 〜約束の地》早速家に帰り、収録曲の《僕と彼女と週末に》を聴いたとき、浜田省吾が曲中で増える汚染物質を風刺した詞を語る部分を聴き、僕は脳天から鉄杭を打たれたような衝撃が走った。歌で、歌なんかでここまで聴く人にメッセージを与えられるとは、浜田省吾、貴方はなんて人なんだ、僕はそれを切欠に社会的な訴えなどもメッセージソングとして次々と歌にした。
僕はこうしたプロテストソングにも興味を持つようになった。
ある晩、観ていたテレビが突然消えた。
「あれえええええ、壊れたっ? せっかく手に入れたのに!」
すると、再び暑いにも拘らず誰かの気配がしたと同時にギターにジョニーの足元が見えたかと思うと、しゃがんだのかギョロリとした目で覗きこんできた。
「うわあああああああああああああっっ!」
『信用は鏡のガラスのようなものだ。皹が入ったら元通りにはならない』
「はっはっ…まっまたお前かよっ、警察呼ぶぞ!」
再びもののけが姿を現したのだ!
『オマエ、オレのことを人に話そうとしたって、ただ単に頭がオカシイと思われるだけなんだぜ? 別に言いふらしてもいい、精神病棟行きを希望してるならの話だがな』
「おい、ちょっと待てよ、普通は人に相談するだろ! 得体の知れないものがいるってさぁ! 信用もクソもあるかっての!」
僕は反論したが、ジョニーはそれを無視して喋り続ける。
『オマエはオレを感じる。オレが嫌ならお望みどおり消えてやってもいい。その代わり明日の夜、オマエの見たあの場所へ行って、他に何が見えるか教えてくれ』
ジョニーは語るだけ語ると、再びギターは蛻の殻になった。
「あの通り…? あの場所って、もしかしてあの通りか…?」
(行けといわれても、一体どうやって行けばいいのだろうか…)
あの後日、あの通りを昼間探したが信じがたい事に存在していなかった。
「どうやって行けばいいんだよっ!」
呼んだが返事はない。
(一体何なんだ、なんの用だっていうんだろう。とりあえず行くしかないのか? 消えてくれるなら、行くしかないよなぁ…)
翌日の夜、僕は母さんにコンビニに出掛けてくることを告げ、外へ出た。まだまだ虫の声がうるさく、湿気もすごい。日本の夏はどうしてこんなに快適ではないのだろう。焼けた背中の皮を掻きながら僕は目的地へ向かった。
(確かあの角なんだけど…、前見たときには確認できなかったんだよなぁ)
と思いつつ曲がると[その道]はあった……。
路地の先はあまりにも暗い。月明かりも届いていないようなこの妙な暗さ、ここはまさしくあの日通ったあの路地だ。やはりこれは地獄への扉だったんだ…。ここに入ったらもう二度と出られなくなるかも知れない。
怖がりの僕はなかなか一歩を踏み出せなかったが、路地の奥から吹く冷たい風の心地良さに負けていつの間にか路地を進みはじめていた。
暗がりの路地を進むと段々と違和感を感じてきた。僕には霊感など皆無だというのに。一本の街灯に照らされた真っ直ぐの路地と右と左に伸びる十字路に辿り着いた。
一見普通の住宅地の十字路だが、違う。どちらも暗く先が見えない、ここだ。そうだ、思い出したぞ。ここで不気味な声が聞こえたんだった。それがジョニーだったに違いない。
「ジョニー、約束どおり来たぞ」
僕はそっと呟いてみるが、少し待ったが返事はない。
「…誰もいない…?」
そうだ、他に何が見えたかだったな…。僕は辺りを見回す。前に来た時ほどの嫌な感覚はない、腐った中身を取り除いた表面だけの蜜柑といえばいいのだろうか。不気味だ…。そうだ、ゴーストタウンというのはこういうものの事を言うのかもしれない…。
「うぅ寒っ…」
半袖の僕には、ここはあまりにも肌寒い。冷たい風はやがて突き刺すような寒さに変わっていた。
「そうだ…」
寒々しい住宅街の十字路のアスファルトに目を凝らすと、何かの光が反射しているかのように明るい事に気付いた僕は、空を見上げた。
「今夜も、すごい星だ…」
見上げた夜空は、あの日と同じように、夜空で網状に連なった銀河そのものの様に輝かしい星の光の大群が頭上を覆っていた。
「見た事のない夜空だ…綺麗だなぁ…」
もしやこれが獅子座流星群ってやつ? でもニュースじゃ言ってなかったよな…。
(見た事のない夜空…、この事か? 他には何かあるか?)
周辺に建つ民家、何れも名無しの表札、(なんだここ…)
アスファルトに這いつくばって眺めてみたが《他の何か》などどこにも見つけられない。
「…つーか、他の何かってなんだよ。漠然とし過ぎだ…」
(普通と違うのは、空と人の住んでいる気配のない家、それとこの肌寒さか? もう帰ろう)
「…!」
自分の位置をいつの間にか見失ってしまっていた事に僕は気が付いた。まずい…。自分の方向音痴さを僕は呪った。
「多分…、こっちじゃないかなぁ…。うー…、あーもいいよどうなっても!」
正直、民家や道路に細心の注意を払っている事に気疲れしてきていた。とりあえず直進の路地を進むことにした。まるで僕は夢物語の中に居るようだ。ここにくるのは二度目だがこの間もそうだった、普段ありえない事が普通に起こって、それに普通に順応しているような感じだ。
歩き始めていた僕は、既にもう家の前に到着していた。
「あ…」
後ろを振り返ると、いつもの家まで続く道が見えた。まるで世にも奇妙な物語じゃないか。
「ただいま…」
僕は玄関を開け呟いた。
「あら早いわね」
僕はそんな母さんの返答に軽く応えて部屋へ戻った。
(早い…? 自分が長く感じただけか…)
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