第4話「美大受験」

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 学園祭の数日後、部屋でギターを弾いていると母さんがやってきた。 「西山さんって女の子から電話よ」(え! 美奈ちゃんだ!)  二階の電話を取り、目いっぱいに線を引っ張り、部屋に電話をもっていく。 「もしもし?」 「あ…タケル君? こんばんは…」 「あ、ああ…どしたの?」 (何を言ってるんだ僕は…) 「え、ちょっと連絡先聞いたからかけてみたんだけど…」 「そっか~、俺もかけようと思ってたんだ。今度二人で会わない?」 「うん。考えとくね」 「だね。今度は俺から電話するわ」 (デートに誘ってしまったー! どうも意中の子を相手にするとしどろもどろになっていた僕だったが…。意識改革か? しかし、考えとくとはどういうことだろう。いきなり二人は抵抗はあるか。なんてたって中学生だからな)  暖かい陽射しと冷たい風が交わる心地の良い土曜日の放課後…、男三人で池袋の《いけふくろう》で待ち合わせ。 (抵抗あるとは思いきや、最初は二人で会いたいという話で美奈ちゃんと盛り上がっていたものを…、彼女の友人も行きたいって。なんなんだろうか)  僕は渋々石原と岩田を呼ぶ事になった。 「タケル君待った?」  目の前に現れた彼女は、一段と光り輝いていた。六人で池袋をブラブラしカラオケをし他愛のない話ばかり。天気はかなりの快晴で恵まれていたが、今日ではどうにもならなそうな展開に僕の心は曇りがちだった。 “おい! てめえ何ガン飛ばしてんだよ!”  ゲームセンターで美奈ちゃんと遊んでいると僕の耳元で声がした。振り向くと知らない学ラン男三人組みが僕を睨みつけている。 「は?」(見ちゃいねえし) 「テメー喧嘩売ってのか!」  いかにも悪そうな目をした奴等だ。やばい! 危険を察知した僕は、石原と岩田に目を向ける。 (ええっ! おいおい!)  石原と中井はついさっきまで側にいたのに、黙々と別の台でゲームを始めていた。完全に知らぬ振り、なんて奴らだ! 「おい! 聞いてんのかよ!」  肩を叩かれた。 「いや、誰も見てないけど…」  心臓の鼓動が早くなる。女の子三人は真摯な目で僕を見ている。石原と岩田はゲームをしている。僕は一人、相手は三人。ここで三人を叩きのめせば僕はヒーローだ。でも大よそボコられるのがオチだ。そう思った束の間、一人が胸倉を掴んできた。 「なにシカトしてんだよ!」 「やっちまおうぜ!」 (ヤバイ! やられる。) 「ちょっと待てよ!」  これは絶対無理だ。どうすりゃいいんだ?  「すみませんでした…」  そんな僕から出てきた言葉は情けない一言だった…。 「ケッ! こんな奴相手にアホくせえわ。いこうぜ」  三人はそれを聞くなりつまらなさそうな顔をしてその場から去って行った。女の子三人の目は冷ややかだった。 「ガハハ、タケル、なんか知らない奴といたけど知り合いか?」 (おいおい…)  石原と岩田は絡まれていた事に気づかなかったと言いしらばっくれていたが、それについて僕はとやかく問いだす事はやめた。自分の情けなさが浮き彫りにされ苦しかった。彼女の僕を見る目が明らかに変っていた。すぐに独りになりたかった。僕らはその後、時間も遅くなっていたので解散することにした。  それ以降、美奈ちゃんと会う事はもうなかった。あそこで喧嘩を買えば石原と岩田は加勢してくれたのだろうか? 加勢があろうがなかろうが向かって叩きのめされた方が良かったのだろうか。色々考えた結果、僕は傷つけられるのを避けたいがために、プライドをかなぐり捨てたわけだ。それぐらい安っぽいプライドしか僕は持ち合わせていなかったようだ…。結果的に後にそれが直接的な問題なのかどうかは分からないが、彼女にはあっさりと振られた。自然消滅は避けたかった。結果など分かり切っていたけれど告白をした。ただ見える形で、意識の出来る形で終らせたかっただけだった。そして忘れたかった。すべての意味、方面で悔しかった。  恋し砕けた心、もう拾い集め続けてきた  でも、もう疲れ果てたよ もうすぐ寒い冬がぁ  木枯らしがこの俺の心にさえも  冷たく吹き抜けてゆく帰り道   冷え切った胸がすべてを捻じ曲げ 人通りのない並木道、独り歩く夕暮れ わからないなぜ、こんなになる為、 俺は生きてきたわけじゃない。 『可哀相だな、うむ。短く笑って長く泣く。それが恋の習いだ。勇者になれなかった悔しさをバネに男になろうぜ。でも、今のオマエの曲は浜田省吾っぽ過ぎる。二番煎じをやってちゃあオマエはいつまでもその位置に過ぎん…、青いままだ。オレが色々教えてやるから楽しみにしてな』 「…ジョニーに何が解るんだ? つーか、なんだよジョニーって、チャックベリーかよ。ふざけた名前だよな」 『わかるわかる。オレも色々な失恋を経験したもんだ。オマエもこの先わかるさ。もう目を覆いたくなるような散々たる失恋もあった…。でもオレは全て糧にしたぜ? オレもネガ思考だったが前向きさもあったからな。オマエもオレに習え。弱そうなやつに絡むクソみたいな連中がいるんだ。もっと体を鍛える必要もあるな! オレもいたようなことがあったが、それからは肉体の鍛錬に勤しんだものだ』 (気味の悪い目で小気味良く笑いやがる…。ジョニーが失恋? ってことは恋もするのか? 悪い冗談はよしてくれ…) 『…なんか言いたそうだな? まー色々後悔しつつ精進しろ。じゃあな』  勝手に出てきては勝手に消える。もうそのままずっと消えていてくれよ。
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