サンタクロースのころ

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ある日、いつものように夕方に目を覚ますと、開けっ放しの窓から、室外機の無機質な音に混じって、ピアノの音が聞こえてきた。 ついには幻聴まで聞こえるようになったか、と思ったが、違った。 本当にピアノの音色だった。ひどい音だった。ろくに調律もされていないピアノだろう。 引き方も、指一本で鍵盤を順番に叩いているだけのような、素人とも呼べない代物だった。 ただ、何となく興味が湧いて、窓から顔を出すと、アパートの隣の児童施設の1階の部屋の隅にピアノが見えた。 そこには小学生くらいの、長い黒髪の女の子が座って、熱心に弾いている。 確か、親のいない子を預かっている孤児院のような施設だったはずだ。 他の子は庭に出てボール遊びをする中で一人、楽譜を見ては鍵盤を見て、また楽譜を見ては鍵盤を見て、ひたすらそれを繰り返していた。 もうピアノなど、二度と見るものかとも思っていたのに、なぜかその子の背中から目が離せなかった。
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