縁側(幼馴染・硬派ガテン系受け)

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縁側(幼馴染・硬派ガテン系受け)

幼馴染、タメ、強か優男×硬派ガテン系男子 7年前くらいに書いたものです。 *************** 「やっぱりいた。誠ちゃん、ここにいた!」  縁側は土屋誠一の特等席。風呂上がりに、ぼんやりと月を眺めながら物思いに耽るのが日課だ。仕事で酷使された心身の疲れがリセットできる。  そこにいつの間にかやって来たのか、幼馴染の持田圭介が誠一に声をかける。 「びっくりするじゃないか。何だ、圭介か……。何しに来た?」 「何しにって……。ちょっとヤボ用」  つれない誠一の言葉にも堪えることもなく、圭介はヘラヘラと胡散臭い笑みを浮かべる。  だが、大事なところはやんわり躱されたように思える。 (何だよ、まどろっこしい。直球で物を言えよ。どうせオヤジのところにでも来たんだろ?)  誠一の家は祖父の代からしている左官工事屋だった。  職人肌で頑固一徹のオヤジとは、子供のころから衝突してばかりいる。はた目からは互いに遠慮なく言いたいことを言える親子の仲というのは良好に映るのかもしれない。  だが、年を重ねる度に意固地になっていくオヤジには正直、辟易としていた。 (オヤジは全然人の言うことに耳を貸さねぇし、とことん融通が利かねぇんだ)  そうは言っても、誠一はそのオヤジと同じ道に進んだ。  もちろん、親子そろって同じ道に進む必要はなかったのだが、子供の頃から父の背中を見て育った誠一にはそれ以外の職が思いつかなかった。  石の上にも三年。自分でもそれなりに仕事を回せるようになってきたと思う。  それこそ現場に出て三年も経てば、土木施工管理技士の資格だって取れるのだから、経験実績は大きい。  けれども、そうなるとオヤジとは嫌でも師匠と弟子の関係になる。共通の世界にいればいるほど見たくないものも見えてきたし、他人なら我慢できることでも互いに持て余した。  だからか、この仕事に就いてからというもの、昔気質のオヤジと現代工法をかじる誠一とは意見が合わず、より一層激しく衝突するようになっていた。  そうでなくとも、今日は現場で嫌なことがあったのだ。むしゃくしゃしている。  あのオヤジに呼ばれて従順にやって来ただろう圭介を思うと、癪に障った。 「そんなムスッとした顔して、眉間の皺が濃くなるよ。ほら、解いた、解いた」  圭介は人差し指をちょんと誠一の眉間に押し当てる。 「うっ…」 「誠ちゃん、健康そうに日焼けした、その見た目まんまの好青年なんだから、そんな表情していたら損だよ。それに、俺が来た理由ぐらいちゃんと分かってんでしょ?」 「あ? 理由?」 「だ・か・ら~~。”誠~~ちゃん”に会いに来たに決まってんでしょ!」 「っぅ……。何が誠ちゃんに会いに来ただ」  そんなことあるものかと思ってはいても、仕事ついでに寄ったと言われなかったのが嬉しい。  頬がかっと赤らむのを誤魔化そうと、むすっと膨らませる。  「本当はそんなんじゃねぇーんだろ? そんな軽口叩いてねぇーで、早くオヤジんところへ行けよ!」  さも、仕事にカコ付けて来たんだろと言わんばかりに言ってやる。 「まーたまた、誠ちゃん、そんなつれない事、言・わ・な・い・の! 確かに仕事の打ち合わせでオヤジさんのところに来たけど、そもそも俺がこの仕事に就いたのは誠ちゃんの顔を見るためだよ。いずれは誠ちゃんも親方になるんでしょ? そしたら俺に設計の仕事を一杯回してね!」 「………っ」  圭介は誠一と違って頭が良かった。何もこんな田舎で燻っていなくとも、望めばもっと良い仕事に就けたはずだ。  それが誠一と共に大学で土木学を学び、こちらの設計事務所に入った。それがとても勿体なく思えたのだが、実際のところ手に職を持つ者は強い。良い意味でつぶしが効く。方向転換しようと思えば、いつだって職を変えることだってできるだろう。 「でも、まっ、誠ちゃんがそういうなら、ぱ〜っと済ませてくるから! 誠ちゃんも”逃・げ・な・い”で、俺のことちゃんと待っててね!」 「まっ…、待っててって…………、ぐぅっ! 誰がオマエのことなんぞ待ってるか、さっさと行け!」  心にもない啖呵をきる。  血は争えないとは言うけれど、誠一も相当なものかもしれない。  圭介が母屋に消えたのを確かめると、大きく息をつく。後ろめたさに見上げた空には、少し欠けた月が雲の間から覗いていた。
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