一丁のパンツ(独身寮、独身部下×上司)

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一丁のパンツ(独身寮、独身部下×上司)

独身寮 独身部下×独身上司 攻め視点 平凡日常 ***************  ひらひらひら……。  風に吹かれ、何かが上の階からベランダへと舞い落ちてきた。 「うわっ……、すごい趣味のパンツ!」  某美少女戦士柄のピンク色をしたボクサーパンツ。こんなもの一体どこで見つけてくるんだか。  津田陸人(りくと)が暮らすのは、勤務地の品川からやや離れた神奈川にある会社独身寮だ。  通勤には京浜東北線か、京急で一本。どちらも各停しか停らないのがたまに傷だが、所要時間も三十分程度。  最寄り駅にはスーパーにクリーニング店、本屋、歯科、内科、ファストフード店が隣接し、寮までの道中にもコンビニ各種が軒を並べていた。どんなにズボラな性質(たち)でも、帰社時刻が遅くなろうと、食べ物には困らない。  勤務地からやや離れてはいるものの、なかなかどうして便利な立地だった。 (みなとみらいも近いしな。ここへ来てから野球観戦もよく行くようになったな)  だからこそ、このピンクのキャラクターパンツの持ち主は確実に社の人間のものだった。  しかも、上の階に住むのは陸人よりも役職が上の者ばかりだ。  独身寮といっても、中には地方に家族を残して単身で赴任してきたような、かなり年上の人間も混じっていた。 「っとに、誰のだ?」  そんな風にごちるものの、ある程度誰の物かは察しが付いていた。 「サイズはM……、いや、Sかも? かなり小さいな」  ピッタリフィット好きにしろ、このサイズだ。かなり小柄か、スリムな人間の所有物に違いない。  すると、独身寮に住む上司の多くは腹にでっぷりとした贅肉が乗っているのだから、その該当者は一気に絞られる。 「やっぱりあの人しかいないか………」  瞬時に顔が赤くなる。  趣味が悪かろうと、このパンツに親しみさえ湧いてくる。  陸人はパンツを通して、掃き溜めに鶴といった美人上司・蓮川浩志(はすかわこうし)の像を脳裏に思い浮かべた。 「性格から言っても、間違いないだろうな」  蓮川は社内ではスーツでビシッと決めて、鬼のごとく仕事をこなす。  けれども、普段ときたら無頓着で、雨の日も平気で外に洗濯物を干しているような隙だらけの人間だ。  しかも、彼の場合は洗濯物をピンチで留めるのも適当なのだろう。陸人の元へ衣類が飛んで来たのはこれが初めてのことではなかった。  蓮川は悪ぶれもなくベランダから身を乗り出して、「津田、今、そっちに靴下を落とした。悪いが、お前のところで干しておいてくれないか? 夕方頃に取りに行くから」と。  だが、そんなことを言っていたにも関わらず、取りに行くのをコロッと忘れる。当然、陸人の方が届けに行く羽目になるのだから、世話が焼ける。  だから、ここでの生活で蓮川の素を知るようになって、見方も百八十度変わった。  その上、蓮川は私服のセンスも最悪だった。あれば何でも着るのか、普段のスーツ姿との落差が激しい。  土曜に資源のゴミ捨てで下りると、私服姿の蓮川と遭遇することがしばしばある。  初めてその姿を目にした時には愕然としたものだ。  失礼なことに、自分の目が信じられなくて三度見してしまったくらいだ。兎にも角にも素材が良いだけに勿体ない。  しかも、蓮川は大のビール好きだった。  アルコールの抜けきらぬ様子でふらつきながら、大量の空き缶が入ったゴミ袋を抱えて「今回は間に合ったか?」と呑気に呟く様に、エリートサラリーマンの見る影もない。  こんなに飲んだくれていたら太りそうだが、ビールに少しのツマミだけあれば生きているタイプなのだろう。この人に限っては、中年太りとは縁遠そうだ。  けれども、この無頓着ぶりとこよなくビールを愛する慣習が仇になっているのか、美形の割りに一向に決まった相手が出来ない。  世の女は見る目がないと思うのだが、陸人にはそんなところが何とも可愛く映った。 「今回はモノがモノだけに聞きにくいが、仕方がないな。聞いてみるか」  いくら繊細に気遣ったところで、蓮川本人はさして気にとめず「あっ、悪かったな。落ちてた?」などとと返ってきそうだけれども。 「本当にもう世話の焼ける人だな! 下の階が俺でラッキーだったと思ってくれよな、っとに……」  そんな風にぼやいてはみるが、本当のところはこのスラックスの下の秘密を自分のものだけにしておきたかった。  愛しさ余って、(仮)蓮川のパンツを胸に押し当てる。 「うっ、やべぇ……、蓮川さん……………。ムラっときた」  ひょっこりと息子が頭をもたげた。 (これは……、匂いは嗅がない方が身のためだな)  これをおカズにしてしまったら、今後、後ろめたさで蓮川とまともに目を合わせられなくなる。それは陸人の望むところではなかった。  できればパンツをネタに蓮川ともっとプライベートで懇意になって、身の世話をやいてみたい。更には夜は亭主で、普段は蓮川の主夫というポジションになれれば言うことなしだ。  そんな自分の未来予想図を思い描いて、ここはグッと我慢だとばかりに甘い誘惑を跳ねのける。  陸人は鎌をもたげていた息子を律すると、はやる気持ちで蓮川の部屋のインターフォンを押した。 「えっ、は――い、誰?」 「あっ、蓮川さん? 下の津田です!」  呑気な声と共にドアがゆっくりと開く。 end ****************** 上司の蓮川さん、パンイチでウロウロしていなかったようで、良かった。 まぁ、パンツは間違って裏表逆で穿いているかもしれませんけど。 (◎_◎;) いろんなタイプのお話を書くといいながら、ここまで庶民的で残念な登場人物、かつ日常ものばかりですね。 まぁ、書いている私がキュンさとは縁遠い年齢だからでしょうかね? ですが、次こそはキラキラしたハイスペック人間のお話を書いてみたい。 ……い、いけるのかな??? どう転んでもいけない気がする。
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