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しかも、来た早々にウォーターワールドのショーを最前列で観たいと言うから、派手に水を被ってずぶ濡れになる。
「おい、昴、これはわざとか? 確かに俺は頑丈そうに見えるけど、今度は俺自体を凍らせる気だったのか?」
イラッと不満を漏らせば、人垣がササッと福士を避けて、モーゼの十戒のような道が開けた。
(あれ? 俺はまた不本意ながらに周囲を凍らせたのか?)
「まぁまぁまぁ、福士さ~ん。ここに水も滴る良い男が出来上がって、惚れ直すだろ?」
「自分で言うな!」
昴は福士とこうなる前は端正な甘いマスクを武器にモテモテ街道を突っ走っていた。確かに中身を知らない人間なら惚れてもおかしくはない。
だが、福士はそもそもこの顔に惚れたわけではない。俗物的だが、どちらかといえば身体に惚れたというのが正しいのかもしれない。
もちろん昴からの想いに絆されたのもあるが、この俺がセックス依存症に陥るとは露とも思わなかった。もう昴なくしては生きていけない体だ。
今でも脳ミソの軽いヤツだと思うし、昴のが常に愛情多めでウザいけれど、コイツの良さは顔よりも他にあると思っている。
そんなこともあってか、昴はデートなんてお手の物のはずなのに、福士とのそれとなると途端に気合いが入り過ぎるのか、逆に男同士ということで気兼ねが要らないのか、こんな風に一緒に出かけると、ろくなことが起こらない。
「昴、お前はバカだから風邪を引かないかもしれねぇけど、俺は見た目と違って繊細なんだ。また風邪を引いて仕事に穴が開きそうになったら、お前が責任を取って俺の仕事を全部肩代わりしてやれよ!」
「俺が温めてやっから、大丈夫だってぇ~~」
「何が大丈夫だ。全然良くねぇーわっ!」
ところ構わずイチャコラしようとする昴を身からひっぺがす。
(お前が憐れなくらい馬鹿だってことを再認識できたぜ。マジで周りが凍るだろ――がっ!)
既に、福士の眼光の鋭さに半径十メートル以内に人は見当たらない。
「だけど、これで心置きなく着替えもできるってもんだな」
「はっ?」
「これも計算のうち。福士く~ん、デート慣れしている彼氏に感謝しろよ」
「はっ?」
「さっ、行くぞ! 俺たちもさっさと魔法学校に入学しようぜ!」
「はぁ~~~!!」
まさかとは思ったが、昴は一万四千円もするローブとマフラーをポンと二人分買い、寒さを武器に福士にも着せる。
福士はこれまで三白眼のせいで日陰部族だったが、昴とつるむようになって世界が華やいだ。こうやってなりきりルックでバカをやるというのも存外に楽しいものだ。
だが、調子に乗った昴が「お前にはその鋭い目という武器がある。フクロウの着ぐるみがあったら完璧だったのにな」なんてほざくから、絞めてやろうと襟元を引っ掴んだら、自分たちを取り巻く人垣が更にもう十メートル後ろに退いた。
「あっ…………」
「合計二十メートル。今回も混雑知らずで、無料のファストパス状態だな。東京に帰っても、その能力を大いに満員電車で活かしてくれ!」
リベンジどころか、うっかり新記録を更新してしまった。
「でもって、どうせなら首を絞めるじゃなくて、俺をアソコを絞めてくれ。今晩も大いに期待しているぜ、福士く――ん♡」
昴がボソリと耳元で呟く。
途端に羞恥と怒りで目尻が真っ赤に染まる。
だが、昴のアホさ加減にかかったら、根っこは同じくバカな福士もなし崩し。予言通りにそうなるだろうことも目に見えていた。
END
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この二人の悪代官×小姓コスプレを描いて頂きました。
(豆柴ラムネさん)
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