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涙の理由
剣を手に取る少年。
彼は涙を無くした。ただ戦い続けるために心を殺した。
そうしなければ戦えなかった。甘さは弱さだったから。
何事にも動じない強さが必要だった。戦うことに躊躇は許されないから。
涙も苦しみも無くした。楽しさも嬉しさも感じなくなった。
あの少年は傷を負っている。見えない傷を負っている。とても深く、根深い傷。
その痛みすらも振り切って、全ての痛みを振り切って、彼は前だけを見続ける。機械のように、ただ前だけを見続ける。
その目に涙は無い。後ろも振り返らず、俯くことも無く、どんな困難にも躊躇することなく、まっすぐ前だけを見て進む。
涙が無いから前を見続けられる――。
しかし、彼は傷を負っている。その刃で人を傷つけると、同じように傷を負う。
見えない刃が彼を傷つける。見えない刃が彼を襲う。
だから私は涙した。彼は泣いているはずだった。
彼は本当は泣いていた。彼は確かに泣いていた。
優しいままでは戦えなかった。
心を無くした彼には何も届かない。どんな言葉も通じない。
大切な人達の目も振り切って、戦い続けて、心を無くして、周りも見えなくなっていく――。
もう彼に言葉は通じない。
だから私は涙を流すしかなかった。
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