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私と金雪がともに過ごした期間はとても短い。たしか、十歳の冬休みの間だけだったろうと思う。
子どもの頃、日々を上手く生きられずにいた私は、人気のない山で過ごす大叔父の家に一時的に預けられたのだった。
当時、金雪はもうすっかりと山のひとのような顔をして生きていたけれど、元々はもう少し、街に近い場所に住んでいたらしい。
長年ともに暮らし、息子のように可愛がっていた犬が行方不明になったのを追いかけて、「たしかにこの山にいる」と誰にも理解されない強固な確信を得た金雪は、姪夫婦(私の両親だ)とも別れてこの山奥に住むようになった。
不便な場所にあえて一人で住むことを決めた金雪を、誰もが頑固だと変わり者だと評した。
金雪の愛した犬はついに見つからず、ある日彼は笛を作った。というのも、とうとうその日、犬が死んだことを知ったからだという。
――家の中で一人きり、あの犬を想って目を瞑っていた。するといつの間にか目の前に鹿がいて、あの犬は死んだと告げたんだ。あれはとてもいい犬だった、感謝している、とも。
真っ黒な目が、そう言っていた。
あれは賢く勇敢な犬だったから、山のものたちのなにかのために生きたのだろう。そして死んだのだろうと金雪は納得したそうだ。
悲しいが、受け止めよう。
気付けばもう鹿はおらず、そこはずっとひとりきりの家のままだったそうだ。ただすぐそばに、犬の白骨が綺麗な形で横たえられていたそうだ。
あの犬は動物たちのもとで、惜しまれて長い時間をかけて見送られたのだろう。
……笛を吹かなくては。
金雪はそう思ったのだそうだ。
――いのちを見送る音を鳴らさなくては、と。
それでその時に、金雪の手によってこの笛は作られたのだ。
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