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ぱきりと暖炉にくべた小枝が爆ぜた。十歳の私と、歳老いた金雪は静かに話を続けていた。
「動物は悲しくても涙を流せないそうだ」
掌にすっかりと収まってしまう小さな笛に視線を落として、金雪は十歳の私にそう言った。
「泣きたいほどの強い悲しみを抱いても、それを吐き出すことができない。耐え切れないほどの悲しさを抱えると、泣けない代わりに命を落としてしまう」
それは辛いね、と十歳の私は言った。
「家族が死んでしまったら、どうその悲しみを受け止めるんだろう」
愛しいものや憧れていたものがいなくなってしまったら、動物たちは張り裂けそうな心を、泣くことによって解放することもできない。
「……苦しいだろうね」
私の言葉に、金雪はじっくりと頷いた。
「あの犬が死んだ時にこの笛を作ろうと思ったのはあの鹿が――その瞳の向こうにいるたくさんの動物たちが、死にそうなほど悲しんでいるのを感じたからなんだ」
狸の瞳を熊の息遣いを鷹の叫びを感じたという。数多の動物たちが、金雪をじっと見つめて悲しみの中、耐えていた。それは悔いている瞳でもあった。大切な犬を金雪のもとにとうとう帰してやれなかったことを侘びる想いが満ちていた。
「……私、この山でそんなにたくさんの動物に会ったこと、ないよ」
深い山は森閑としていた。ここにそれほど多くの動物たちがいるとも思えず、私は疑問をあらわしてしまった。
「身を潜めているんだ。ひとには見えない場所で、動物たちは生きて、知らない場所で、死んでいくんだ」
それは世界の薄い膜を少し捲ったところにある世界。そこを救いに、かの犬は駆け抜けたのだと言う。
金雪は笛を咥えると、そこに息を吹き込んだ。びょうびょうと、ごうごうと、うそ寂しい音が響いた。
虎落笛の音色。
「泣けない誰かの代わりに自分が泣いてやるんだなんて、傲慢なことはとても言えない。彼等の悲しみは彼等だけのものだ。俺の悲しいのとは別物だ」
だけど虎落笛を吹くことは出来るから、と金雪は言った。
「悲しいと叫んで、音を鳴らして、彼等の悲しみを吐き出す手助けなら、俺にも出来る。吹き荒れる風の音は、心を引き裂くような悲しみを動物たちとともに吠えてくれる」
動物たちは虎落笛に合わせて鳴き、吠え、悲しみの声を上げつづけたという。
一晩中、金雪は笛を奏で続けて犬の死を知った日の夜を過ごしたという。
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