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いつしか虎落笛の音色は動物たち自身の鳴き声によって、幾重にもなる重奏となっていた。今は彼等が、虎落笛そのものだ。
順繰りに巡っていた金雪の虎落笛は一周し、私の手の中に戻ってきていた。息を吸いそれを吹こうとすると、鹿の瞳に止められた。
虎落笛は涙の代わり。彼等が嘆きに死んでしまわないように。
(泣かないと、死んでしまうんだ)
大きな悲しみを抱えたままではひとも動物もとても生きてはいけない。あの犬が死んでしまった時、金雪は笛を吹きながら、自らの悲しみのために号泣したのだという。
ひとは涙を持っているのだから、と金雪は言っていた。
(悲しいことがあったら、ちゃんと泣くんだ)
でないとひとは、たやすく死んでしまうから。
悲しいままでは、とても生きてはいられないから。
笛を構えていた手を下ろす。大きく息を吸った。――胸が苦しい。あなたがいない。私と暮らしてくれたあの人はもう、この世のどこにも、世界の薄い膜の向こう側の、動物たちのもとにもどこにもいない。
――上を向いて大声で、私は泣き叫んだ。
一度泣けばあとは堰を切ったように涙は溢れ出し、吠えるような叫び声を上げた。
幼い子どものように、抑えることもできずにひたすらに泣いた。
おじいちゃんおじいちゃんと、呼ぶ声はただ山にこだまする。
虎落笛は私が泣いている間中ずっと、びょうびょうと鳴り響いていた。
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