君とてのひら

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「美しいな、日本にもこんなに美しい、地中海のような場所があるんだな」 「だな、俺も来たことないんだよなここ」 「そうなのか」 旅行が趣味というわけではないし、どっちかと言えば出不精だから。友達や当時の彼女と海外に行ったこともあるけれど、片手で数えるほどだった。 「日本にも知らないだけで素晴らしい場所がたくさんあるんだな」 とはいえ目の前の景色は日本らしい何かがあるわけではないのだけれど。 まぁなと適当に返すと、その背中から興奮した様子 の英語で夫の名前が飛んできた。 「?」 揃って振り返る。見知らぬ外国人が笑顔で立っていた。 「久しぶりじゃないの! この便に乗ってたなんて偶然だわ!」 すらっとした細い彫りの深い男。彼の身長と張り合うくらい背が高い。俺なんか全然視界に入ってない様子で、夫ばかり見つめている。夫は夫で目をまん丸くして、すぐに笑顔になった。 「久しぶりじゃないかっ! 君も日本にきたのか!」 「ええっ! 初めて来たのよ、あなたがいるって聞いてたけど、こんなところで出会うなんて」 昔馴染みのようだ。それ以外今はわからないけど、なんか仲良さそうだししばらく見ていることにする。
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