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「どのくらいぶりかしら〜、前のフェスタにはこななかったわよね? その前?」
「そうだったかな、覚えていないな」
「たしかそうよ、だから8年ぶりね!」
「よく覚えているな、感心するよ」
「当たり前じゃない、だってあのとき彼と付き合ってたでしょうあなた」
男が言うと、夫の表情が一気に固まった。けどすぐに柔和に戻る。
「まぁ昔のことなんかいちいち覚えちゃいないさ。おかげで仕事も忙しかったし、結婚もしたからな」
「結婚?」
今度は男の顔が露骨に曇った。なんかすげぇヤな感じ。
「ああ、紹介するよ、俺の愛する妻だ。日本人なんだ」
ぐいっと力任せに肩を抱き寄せられた。男の視線がちらっと俺の顔を見て、俺の左肩を抱いた彼の薬指に向けられる。
「……ふぅん、そうね、そういえば結婚したってだいぶ前にニュースで見たような気がするわ」
「それほど昔でもないさ。まだまだ新婚。俺も今は日本に暮らしている」
「ああ、だから本社機能が日本に移転したっていう
わけね! 大騒ぎだったじゃない!」
男はしなるように体をよじりながら、大袈裟に目を剥いた。
「愛する相手といっしょに過ごすためさ。それに住みなれると随分居心地がいいもんだぜ」
彼は一切気にしたようではなく笑っている。
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