君とてのひら

15/221
前へ
/221ページ
次へ
「こんにちは、ようこそフェスタへ!」 お揃いのTシャツを着たスタッフに、笑顔で声をかけられる。会場のリーフレットを受け取る。おお、日本語だ。新鮮。こういうイベントに出かけるときは大体海外なんだから。 「どうも」 それがなんか嬉しくて、ちょっと笑いながら返すと、隣で見ていた彼が「ああいう男が好きなのか?」と顔を覗き込みながら尋ねてくる。そういうつもりじゃないんだけど。 「やっぱ日本だなと思っただけだよ」 「そりゃここは日本だろう、どういう意味だ?」 「まぁ俺の感覚だから気にすんな」 この島はもともとリゾート地として、県をあげて開発を進めている無人島なんだそうだ。おかげで何ヶ所か立派なホテルが見えるし風景も綺麗。ザ・観光地って感じ。 「日本人だけど全然知らなかった、こんなところがあるなんて」 「まぁ、自国とはいえ知らないこともたくさんあるよな」 ホテルだけじゃなくて立派に整えられたキャンプ場もあるという。ただ、残念ながら温泉だけがないという。 「残念だな、温泉に入りたかった……」 新婚旅行以来、夫は温泉の虜になっていた。 「でも、銭湯みたいなのがあるって聞いたから、あとで行ってみよう」 「セントー! そりゃいいな!」 曇っていた彼の表情が明るくなる。
/221ページ

最初のコメントを投稿しよう!

339人が本棚に入れています
本棚に追加