339人が本棚に入れています
本棚に追加
ふと彼の顔を見上げる。途端、右手の方の道路から、改造車みたいな凄まじいマフラー音を響かせて、一台のバイクがやってきた。
「うるせっ」
人の賑わいをつんざくようなでかい音で、思わず耳を塞いだ。東南アジアとかで見かける、開けっぴろげな三輪バイクだった。エンジンをふかしたまま、俺らの前に停まる。
「お待たせしました、どうぞ!」
腕章をつけた日本人が、運転席から笑顔で俺らに声をかけた。
「これで行くんだ」
彼は笑顔で俺を見下ろした。え、これ?
「マジで? それこそバスとかじゃないの?」
「島の中にバスは走っていない。車すら小型車が主流だぜ。小さな島だから、これで移動するんだ」
「えー、なんかすげぇ」
異国情緒すら感じる。見れば俺らの他にも、入場の手続きを終えた客が次々と、三輪バイクに乗り込んでいく。
「メイン会場にキャンプサイトもあるんだが、それ以外の客はみんな宿泊施設に移動するようだな。まだ開会式も始まらないし、一息入れるにはちょうどいい」
彼は荷物を席の荷物置きに乗せて、俺の手を取り三輪バイクへエスコートした。
(なんか音楽フェスみてぇ)
メイン会場の芝生のなだらかな地面を眺めながら、道沿いに行く。
最初のコメントを投稿しよう!