君とてのひら

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「わー、本当にVIPだけの場所なんだ」 わーとか言いながら、もうそういうのにも慣れっこになってしまっていた。そこにあぐらをかくつもりもないけど、あんまり新鮮さもない。逆にキャンプサイトに泊まって周りの賑やかさに紛れられないのは寂しいなとすら思う。 「っていうか運転手にそっちに行くって伝えたっけ?」 いや、伝えていないような。彼は涼しい顔をして、専用の運転手だからな、と行った。 「この三輪バイクはコテージに泊まる連中の足専用のものだから心配ない。どこで乗ろうがコテージと本部には連れてってくれるからな」 聞けば聞くほど山手線みたいだった。 「ふーん、さすがVIPだな。絶対道に迷わなくて済む」 ちょっと皮肉っぽくも聞こえるけど、本当にすごい待遇だなと思ったのだった。 ほどなくして、三輪バイクは少しなだらかな坂を登り、誘導灯を持ったスタッフがいる門の前にたどり着いた。 お疲れ様です、なんてスタッフ同士で簡単に挨拶をしている横で、金属製の渋い門扉がゆっくりと開いていく。 「お部屋はYコテージになります。一番奥ですね」 運転手は楽しそうに周りを見渡していた。
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