君とてのひら

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「彼はなんと言ったんだ?」 夫が訪ねてくる。そっと耳に唇を寄せながら、コテージの場所が一番奥にあることを伝えた。 「それは都合がいいな!」 「なんの都合がいいんだよ」 間髪入れずにとりあえず突っ込みながら、開いたゲートを横目にコテージ村に入る。リーフレットには詳しく書かれていなかったけど、中に入ると目の前に丸い噴水が設置されていて、そこに足を突っ込みながら人々が談笑しているのが見えた。 「すげぇ、噴水ある。つうか足突っ込んでるし」 ぼそっと呟くと、運転手が楽しそうに返してきた。 「そうなんですよ、何ヶ所かに、ああいうかたちで温泉を設置しているんですよ。リーフレットには載せてない隠れコンテンツです」 ガチで足湯だったらしい。 「え、ここ温泉湧いてないって聞いたんですけど」 運転席側に少し身を乗り出して尋ねた運転手は食い気味にそうなんですよ!と返す。 「地元の温泉地から温泉を買ってきてるんです。温泉の自動販売機みたいなのがあって、タンクに入れて持ち運びできるんですよ」 「なにそれ、聞いたことねぇ」 「全国あちこちの温泉街にあるシステムらしいですよ。俺も温泉地なんか住んだことないから知らなかったんですけどね! すごいですよねぇ!」 あははーとあっけらかんとして笑っている。
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