君とてのひら

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「だな。とりあえず俺本当に初心者だから案内してくれよ」 それとなく話題を逸せながら乞う。彼はもちろんさ、と言いながら親指を立てた。 「日が落ちたら開会式があるんだが、その前に中を見て回ろう。今からでもいい」 「今から?」 日はまだ高い。島にやってくる人もまだまだいるだろう。混む前に一回りするのもいいかもしれない。 コテージに引きこもっていてももったいない気がするし。 「じゃあ、その足湯だかなんだか探しに行ってみるか」 デートみたい。ちょっと嬉しい。今回に関しては護衛らしい護衛はいないけれど、普段はSPに寄り添われて送迎されて、二人きりでいるのは彼の実家に帰省したときか自宅マンションの中くらいしかない。こんな堂々と外でデートなんて、絶対に出来ないから。 「それはいいな、オンセンで疲れを取りたい」 「足湯だから疲れとれるかどうかはわかんねぇけどな」 「それでもオンセンには変わりないだろう?」 趣味のジャズや宝石、そして仕事もその通りなのだけれど、彼は一度好きになったものはとことん極めたいタイプらしく、日本に来てからはそこに温泉も加わりかけていた。それこそ本を上梓する勢いで。世界的企業CEOの執筆した温泉本なんか出たら面白すぎるけど。
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