君とてのひら

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開会式までの予定をオンセンめぐりに定めて外に出た。日差しが心地いい、風もなくて最高に気持ちがいい。遠くで賑やかな音や声が飛び交うのも、年甲斐もなく子供みたいにワクワクする。 レンタルサイクを借りようかとも言ったけど、とりあえず歩ける範囲で見て歩くまわることにした。 「ウォーキングはトレーニングにもなるからな」 「遊びに来たときはトレーニングやらないとかいってなかったか?」 「ああ、そういえばそうだったな! まぁいいのさ」 軽いウインクの後、頬にキスを落とされる。持参していたトレッキングシューズに履き替えて外に出た。 さすが閑静な森の中にあるコテージ。周囲は鳥の声と葉が風でこすれるささやかな音で満ちている。 「ハニー、乗せられて来たとおりに道をくだろう」 コテージ街は一本道で、何せそれしか道がない。手を繋いで、自然と二人三脚しながら歩き出した。道は砂利道だけど、それもなんかいい。 「すげーな、超気持ちいい。森林浴って感じ」 「そうだな。普段はオフィスやマンションしか見ていないからな」 「だなー。うちからちょっと行けば山もあるけど、わざわざ行かねぇしな」 途中、客を乗せた三輪バイクとすれ違った。窮屈そうに後部座席に詰められた客と一瞬目が合う。 「あらやだハニーちゃん!」 反応したのは、向こうの方が早かった。
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