君とてのひら

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髪を切った。豚のしっぽ程度に結える長さだったのを、きちんとうなじが出るようにバッサリといった。 髪を切るといったとき、夫はあんまりいい顔をしていなかった。いざ切ったらころっと掌をかえしたけど。 「ハニー聞いたぞ、日本はこの首の裏にも色気を見出すらしいな」 ニヤニヤしているし。本当にそういう知識だけは一丁前なんだからな。 耳も、耳たぶがしっかり出るように半分の長さに切った。お陰で彼の手作りピアスがきちんと見えるようになった。 「うん、やっぱこのほうがいい。ちゃんと見えるし見せられるし」 新作のピアスをつけ、鏡の前で両耳を確認する。今回のはエメラルドの原石を加工したんだそうだ。 「おおー! いいじゃないか、作って正解だったぜ、こんなにエメラルドが似合う男もいないな」 「あんまり褒めんなよ、調子に乗っちまうから」 「調子には乗るもんさ、褒められるっていうのは素晴らしいことさ!」 きちんと光を弾く、丸い滴のような緑色が、鏡の中で絶妙な存在感を醸している。うん、我ながら最高に似合っている。 「な、髪切ってみてよかっただろ?」 後ろで見ていた彼に振り返り、襟足を撫でながら尋ねる。 「そうだな、髪の短いお前も最高に美しい」
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