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チャラい後輩
「あれ、三浦さん今日一人っすか?」
「樋川くん。おはようございます」
今日もまた半端ない満員電車の中で俺の顎の先ほどしかない三浦さんは埋もれていた。最近いつも一緒にいるでかい男がいないせいだ。
「ゲージュツくんは?」
「ゲージュツくん?」
「ほらいつも朝一緒にいるでかい男っすよ。ありえねーセンスの」
「ああ」
今日はいないみたい、と今さら辺りを見回す三浦さんは違う意味で女子ウケがいい。ペット的な。
「お前、前も言ってたがそのゲージュツって何」
隣で小さく畳んだ新聞を読んでいた雨宮さんが言った。異常にきれいに畳まれた新聞は、ザ・サラリーマンて感じ。
「雨宮さん知らないすか?芸大っすよめっちゃ山の方にある。大体ぶっとんだやつ多いんすよ」
「へえ」
「彼はその大学の人なのかな?」
「じゃないすか?この電車乗っててあの手のいっちゃってる系ファッションは大体ゲージュツのやつ」
へえ、と雨宮さんと三浦さんがユニゾン。つか知らないことにビビる。
「三浦さんあの男と話したことないんすか?つかぶっちゃけどーよ」
「樋川やめとけ」
「雨宮さんも気にしてたじゃないすかー」
「どうって…?」
三浦さんが首を傾げる。女の子がやればかわいいそれもアラサー男がやるとイタイ。まあ違和感はないけど。
「三浦さんあの男が好きなんでしょ?」
「え?」
「え?って、え?気付いてない系?」
「好きって、だって彼は男の子だし、え?」
目に見えてパニくる三浦さんに俺と雨宮さんが顔を見合わせる。あ、やっぱ雨宮さんも気にしてんじゃん。
「僕、」
「落ち着け三浦」
「三浦さん鈍感?」
朝っぱらからいい歳こいた男らが電車内で恋バナってどーよ。隣のOLさんも気にしてんじゃん。
「僕、」
三浦さんがおそるおそるというように口にする。俺と雨宮さんはなぜか固唾をのんで見守る。
「彼のことが好き」
そして首を傾ける。
「なのかな?」
「この期に及んで何言ってんだ三浦」
社内きってのツッコミ要員、雨宮さんのツッコミが満員電車に響き渡った。
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