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誰から聞いたのか定かじゃないけれど、それは刺青を入れるような痛みだと聞いたことがある。
熱く焼けたナイフで何度も何度も同じ場所を切りつけ、グリグリと少しずつ傷口を広げていくような激痛。刺青を入れたことがないので想像の域を出ないけれど、言われてみればたしかに、こんな感じかもしれない。
「いっっっ……たぁああい!!!」
今まで見ていた夢の余韻が吹き飛ぶ痛みに、私は悲鳴を上げて飛び起きた。私はまた何日も眠っていたのだろうか。急に身体を動かした反動は重く、遅れてきた痛みがじわじわと身体を這い回る。
ここは何処? 今は何時? 私はどっちの私? ぼんやりとした頭を無理やり働かせて状況把握に努めた。
まずはベッドから出ようと足を動かした瞬間、まとまりかけていた思考が激痛で吹き飛ぶ。苦悶しながら顔を上げれば、目の前で父さんとハティが目を丸くしている。
「セラ……?」
「何なのこれ!? 何でこんなに痛いの? いったい何を……」
私は布団を捲って絶句する。今まで生きてきた中で一度も着たことが無いだろう、ヒラヒラした高級そうなネグリジェにも驚いた。だが、問題はその下で銀緑に輝く紋様である。
「御印? どうして……」
固まっている父さんの代わりに答えるように、ハティがガバッと飛び付いて来た。慰めてくれるのか、ふんふん鼻を鳴らしながら私の頬や顎を舐める。
しばらく見ない間にひと回り身体が大きくなったハティは、今や驢馬ぐらいの大きさになってしまった。当然、かなり重い。
「く、くすぐったい! わかった、わかったから! いっ痛ッ! 苦し……お腹を踏むのはやめなさい!」
私は興奮するハティをなんとか引き剥がし、父さんの手を借りて起き上がった。ベッドから降りようと絨毯の上に足を着いた途端、右足に激痛が走って息を呑む。倒れ込みそうになるのを、ハティが体を滑り込ませて支えてくれた。
「どういう、こと? 私が、寝ている間に、何があったの?」
痛みに肺が縮こまる。満足に呼吸できず、息も絶え絶えに疑問を投げかけたが、父さんは厳しい表情のまま首を横に振った。……嫌な予感がする。
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