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「セラ。今はのんびり話している時間は無い。しばらく痛みは続くと思うが、今すぐ神域に向かってほしい」 「神域に?」  この森に来てからずっと、神隠しされないように月神の招待を拒んできたのに、今度は神域に行けとは? 私は父さんの真意が分からず、ただ鸚鵡返しに呟いた。 「君に御印を譲るために、ヒース君に時間を稼いでもらっているんだ」  身体から血の気が引いていく。抗議の声は凍り付いて、震える唇はぱくぱくと空気を喰む。  時間を稼ぐ? 一体何から? なんて考えなくても分かる。眠る私の側で愛を乞うていた彼が居ない。何らかの方法でアルを私から引き離したようだが、あのアルが眠ったままの私を置いて出るなんて余程の事をしでかしたに違いない。ヒースが関わっているとしたら、その憎しみは真っ直ぐにヒースに向かうだろう。 「ヒース君がいくら優秀な剣士であっても、相手は月神(セシェル)と化したアルファルド君だ……。どんな手を使って足止めしたのかは分からないが、劣勢なのは間違いない。君が行って、もう争う必要は無いと二人を止めてほしい」  魔力があると判明しても、ヒースは魔法が使えない。千年前の英雄の記憶を取り戻したアルが相手では、圧倒的に不利だ。私はアルの良心を信じているし、ヒースが一方的にやられるわけないって信じている。でも、暗殺を生業にしていたルシオンは、人間を殺すことに躊躇しない。 「ヒース……どうして、そんな無茶を!」  そう口にしながらも、私はその理由を知っている。  ヒースはあの夜に宣言した通り、私のために剣を抜いてくれたのだ。
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