Ⅰ進級試験の狼 1

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 出会った頃の印象はお互い最悪だったけれど、今は彼のことで相談ができるぐらいには仲良くなれたと思っている。……多少、もの言いは辛辣だけど。 「でも、何か違和感を覚えたのでしょう? 一番アルの近くに居る貴女がそう言うのなら、私たちにはわからない何かがあるのかもしれないわ」  唯一私の悩みに興味を示してくれたのはエルミーナだった。  喫茶室のカジュアルなお茶会にもかかわらず、椅子の背には絶対もたれない。頭の位置も動かない完璧な所作で、小さく切ったケーキを口に運ぶ。よーく味わった後で「美味しい~!」と幸せそうな笑みを溢した。  エルミーナの刺繍作品は先生方から大絶賛されて、コンテストに応募することになったそうだ。当然、試験は合格。先生方や下級生からも信頼厚い優等生だ。来年は寮長になるんじゃないかって噂されている。 「まぁ、一番の謎は女子会になんで僕が参加してるのかってことだけどね」  フルーツが山盛りになった最上段のケーキを切り分けながら、男性代表として巻き込まれたヒースが悩まし気なため息をつく。私と同様に、訓練場の予約時間まで時間を潰すつもりだったようで、偶然喫茶室に入ったところをアンジェリカに捕まったのだった。  ヒースは手際よくケーキを全員に配り終えると、私の隣の席に落ち着いた。 「大体、胃袋要員ならディーンの方が適任じゃないか」 「だって、『肉ならいくらでも付き合うが、甘いものはいらねぇ』って逃げられたんだもの」  声を低めて眉間にしわを寄せ、わざわざディーンの顔と口調を真似たアンジェリカに、ヒースは視線を逸らしてふき出すのを堪えた。 「あの人、色恋なんて無縁そうだものねぇ」  とラヴィアが言えば、エルミーナが紅茶を含みながらすまし顔で頷く。 「従兄弟(いとこ)と親友の酷い言われように、何ひとつ反論できないのが悲しいねぇ……」  ヒースはしみじみというけれど、思い当たる節があるのか、少しも悲しそうには見えない。「まぁ、美女に囲まれて悪い気はしないけどねー」とケーキをつつく。 「残念ながら、その美女たちは全員彼氏持ちなのよねぇ」 「もしかして、略奪愛に燃えるタイプ?」  悪乗りするアンジェリカとラヴィアに、ヒースは顔を引きつらせて乾いた笑いを浮かべた。 「ははは……帰っていいかな?」
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