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会話が弾む間に、ケーキの城は順調に攻略されていく。
午後四時を報せる鐘が鳴った頃、満腹の安心感か、不意に会話が途切れて自然と皆の視線が私に集まった。最初に『彼の様子がおかしい』と言ったきり、黙々と口にケーキを運んでいたので心配させてしまったのかもしれない。
私は最後に大事にとっておいた大きな苺を見つめながらフォークを置いた。ナパージュで真紅に艶めく苺が、お皿の上でぐったりと傾いでいる。
「上手く言い表せないんだ。違和感というか……。でも、他の皆が特に何も思わないのなら、変わったのはアルじゃなくて私の内面なのかもしれない」
私とアルの間には最初から甘い恋など存在しなかったように思う。或いは、私の知らないうちに摘み取られてしまったのだろうか。気付いた時には、ぐずぐずに煮潰した真っ赤なジャムの中で溺れていた気がする。
口の中に残る甘さに鉄錆の味が混じったような気がして、無理やり苺を放り込んだ。
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