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名前はシッポちゃん
玄関入ってすぐのところに猫ちぐらを置いた。以前に飼っていた猫用に買ったもので、物置の中にしまい込んでいた。前の猫は、バスケットタイプで上が開放されているためか、全くと行っていいほど興味を持たず使われていなかったから新品同様だった。
その猫ちぐら中に新聞紙を敷く。このままだと流石に座り心地が悪い。古くなって捨てるのを待っていたタオルを敷き猫を置いた。その隣に、猫用のトイレを設置した。勿論、猫砂とトイレ用脱臭シートも用意した。
「玄関だけでちょっと狭いけどしばらく我慢してね」
私は猫に声をかけた。ダニとかノミとかがいたら困るから、リビングには連れていけない。それに変な臭いがした。動物病院の先生は口内炎のせいだろうと言っていた胃液のような臭いだ。シャンプーをするまでは不自由だけど、玄関と廊下まで。リビングと居間は入室禁止にさせてもらう。
「我慢してね。シッポちゃん」
私は何の気無しに猫に話しかけた。そして、自分で呟いた言葉に驚く。シッポちゃん? それって名前? 無意識のうちに決めてしまった?
猫は、茶色い毛に黒い縞模様の線があるキジトラ猫だ。獣医の先生の話では初老とのことだが、小柄で痩せていて子猫のように見える。そんな猫のひときわ目立つのが長い尻尾だ。茶色と黒のコントラストが美しいだけではなく、スラリとして綺麗だった。
「この子、シッポちゃんにするね」
私は、一歩も引かない。そんな意思を込めて言ったにもかかわらず、母に「貴方の猫だから貴方が決めて問題無いからね」と軽くあしらわれる。
「そんなことより、野良猫だったから衛生面がちょっとねぇ。あと、この臭いがねぇ」
言い返すのを我慢してシッポちゃんを見た。点滴をしてもらったのにぐったりとしている。猫ちぐらの中で横になったままだ。
「暑いから元気がないのかなぁ。でも、それ以前の問題のような気もする。やっぱり病気なのかな」
「拾ってこない方が良かったかもね」
「とりあえず、頑張ってみるよ」
言ってからシッポちゃんを見た。薄っすらと目を開けながら寝ている。見えているのかいないのか。わからない。早く元気になってね。心のなかでそう声をかける。横たわったままのシッポちゃん。これからどうなるのだろう。考えると頭が痛くなってくる。なるようにしかならないよ。きっと。私は考えるのを止めれるよう努力しながらその場所を離れた。
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