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シッポちゃんが遊んでくれたよ
シッポちゃんが我が家に来た翌日。午後、八時。私は家に到着した。
「シッポちゃん、たーだいまー」
玄関の扉を開いて、シッポちゃんに声をかける。けれども、ニャア。って反応はない。代わりに猫ちぐらの前でしゃがんでいた父が振り向いた。手には母が買ってきたのか猫用のおもちゃがある。
「こ、これは、だな」
「勝手にシッポちゃんで遊ばないでよ」
「い、いや、遊んでない」
「もう」
文句を言いながら父が持っていたおもちゃを奪い取る。
「ちょっと遊ぶ?」
ネズミの模型が付いた紐付きのおもちゃをゆらりゆらりと動かす。緩急をつけた動きを見せると、シッポちゃんはネズミを追いかけ始める。よたよたとした動きで、元気な猫には程遠い。でも、手を動かす速度は流石。完璧に避けたはずのネズミをしっかりと捕まえる。
私はおもちゃで散々遊んだ後で餌を目の前に置いた。でも、シッポちゃんはちょっと口をつけるだけで食べようとすらしない。だから、チュールを持ってきて口の前に近づける。それでも、反応はない。顔を近づけると、ズビーって音がする。ちゃんと見ていなかったから気づかなかったけど、風邪をひいている。昨日、動物病院で抗生物質を貰っていた理由を思い出す。
「確か……、水に溶かしてスポイトで上げれば良いんだよね」
私は父に話しかけるが、良くわからないとばかりに首を傾げる。
「いいからシッポちゃんを持ってて」
開かない口に無理やり差し込んでスポイトで押し込む。すると、上手く飲んだ……。かのように見えたが、シッポちゃんはバタバタと暴れだすとその場に吐き出す。
私は慌てて猫ちぐらの横にあったティッシュを取り出す。そして、シッポちゃんの口と吐き出した床を念入りに綺麗にする。その後で、ウェットティッシュを一枚取り出してシッポちゃんの顔を拭いた。鼻水を拭き取るとくしゃみを何度も繰り返している。
「ごめんね。調子が悪いんだね」
謝りながらおもちゃを隠す。喜んでいるからって無理をさせてしまったのかもしれない。遊ぶことで無駄に体力を消耗させてしまったのかもしれない。私はシッポちゃんの頭を撫でながら、元気になれって祈っていた。
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