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「佐藤君、君もわかってると思うけどうちもコロナの影響で経営厳しくてねえ。それで会議したわけなんだけども、人員整理することになって。それでね、君まだ若いし転職とかできるでしょ? だからさまあ、端的にいえば、会社やめてくれない?」
悪趣味な金色の絨毯を敷いた社長室で、はげ頭の社長が悪びりもせず頭をぼりぼり掻きながら、俺に言い放った。あまりにもあっさりとした解雇宣告に俺は、ただ気の抜けた声で「はぁ」と答えることしかできなかった。外は夕闇。その夜空を俺は何度も何度もこの会社で残業しながら眺めていた。今日も代わり映えのない一日が終わる。
「まあこっちとしては自己都合退職ってことにしてほしいんだけどいいかな? 引き継ぎとかもしっかりお願いね。それじゃああとの細かいことは総務の加藤くんに頼んであるから」
社長は立ち上がると、ぽんと俺の肩を労るように叩いた。情感を込めて、本当に苦渋の決断だというでもいうように、社長は肩をすくめる。そして自分の部屋から出て行くようにと扉を開ける。社長が平社員にできる精一杯の誠意なのだろう。俺はこれから上司が間違えて大量発注してしまった商品の返品作業に取りかからなければならない。これだと俺の月に一度の楽しみに間に合わない。まだ今月は一回もいっていないから、月末の今日にいかないとダメなのだ。だから死ぬ気で頑張らないとと思っていた矢先にこれだ。ぽきりぽきりとなにかにひびが入っていく。
「あと返品作業、今日中までによろしくね」
バキッと、頭のなかのなにかが折れる音がした。
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