博士の右腕

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「私に起こった出来事を、今のみんななら信用してくれるだろう。すでにタイムマシンができ、一部の人間は条件付きで活用できるようになっている。私も申請をして過去の自分に義手を届けに行くつもりだよ」 静かな声で語り終わった博士のそばで拍手が沸き起こる。なんと未来の自分が過去の自分に義手を届け、その義手をモデルに開発させるという話だったのだ。 「博士!なぜ博士の義手はまわりの人間には見えないんですか?科学で説明がつきますか?」 「最近、気づいたんだが、どうやら省エネモード機能があるらしい。私が発明を完成させるまで、一度も義手は壊れたことはないし、メンテナンスをしたことがないんだよ。自分の見た目にこだわらないのであれば、半永久的に使える義手だ。義手を維持するためのメンテナンスもかからない」 「今の義手はそこまで性能が良くないですよね?改良しますか?」 「うむ。改良はすぐに済むだろう。この義手を調べれば良いんだから」 「え?いいんですか?」 「過去の自分に早く届けたいからね。みんな頼むよ」 博士は研究員の質問に答え、朗らかに笑っている。きっと水泳で一番にゴールした気分を味わっているのだろう。 博士、博士、僕は博士を恨んだこともありますが、今の博士をとても尊敬しています。あとで正直にお話します。 敬愛なる博士を跳ね飛ばしたトラックの運転手は僕の父さんです。 真夜中に歌いながら歩いていた博士とそのお友達は、赤信号を無視してわたりました。取引先に焦らされていた僕の父さんは、いつもなら慎重に角を曲がるのに急いで曲がってしまったんです。 父さんと母さんは離婚をしていましたが、僕はたまに父さんと会っていました。父さんのことが好きだった僕は、有名人だった博士を調べてまわったんです。 博士が水泳の道をあきらめ、鬼気迫る様子で勉強していたのはそのためだったんですね。 いまだ開発されていない義手の開発に、僕も手助けしたいと思いました。博士、博士、博士、父さんを恨まないでくれてありがとうございます。
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