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「今までよく助けてくれた。諸君のおかげで素晴らしい発明ができた」
博士が大勢の研究員を集めてスピーチを始める。僕も他の研究員も感極まて博士のそばに集まった。博士のそばには一本の腕がある。今まさに人体から切り取ったばかりといいたくなる右腕は僕らの研究の成果だ。
質感は本物の人間の皮膚と変わらない。多少、個体によって質感を変える必要はあるが、その課題もすぐにクリアできるだろう。何より画期的なことは、自分の意志で自由に動かせることだ。血液は出ないし怪我まで再現できないが、そこまで求められているわけじゃない。
おっと、失礼。何のことだかわからないって顔してるね?
僕たちが発明したのは、事故や病、先天的に身体を損なってしまった人のための義手や義足だ。目や耳となると、僕らの専門からは外れるが、それでも大いに研究され、一部は医療機関で使われている。
まるでSFの世界だろう?
戦いで腕を失った主人公が。科学と医療の力を借りて、本物そっくりの義手を手に入れるんだ。その内、義手や義足ではなく、クローンの力で、そのまま腕を取り付けることができるようになるかもね。
まあ、今の段階では、義手や義足が世の中に求められている。AIロボにも使われるだろう。
しんと静まり返った広い研究室の一室で、みなの視線を浴びて博士が微笑む。この博士こそが設計図を描きみんなを発明の成功に導いたんだ。僕らにとって素晴らしいひとだ。
「これまで頑張ってくればみんなに、私の秘密を話そうと思う」
秘密?ひみつとは何だろう。軽いざわめきが立つ中で、博士は白衣から右手を差し出した。その様子にぼくも含めて多くの研究員がぎょっとする。
「おどろいてるね?無理もない。私はずいぶん前に、事故で右腕をなくしたのだから」
そう、それこそ、博士の義手開発に向ける原動力だった。自分の失った腕をもとのように取り戻したい。他の困っている人たちのために開発したい。その博士の熱意と具体的なプランに、大手企業や医療機関が動いたんだ。実業家が寄付もしてくれた。
研究員も一丸となって働き、僕は博士のすぐそばで、そう右腕ともいえるかもしれない。それぐらい近くで働き貢献したという自負がある。
驚く研究員の前で、博士は右腕を肩から取り外し、完成したばかりの義手の隣に置いた。
「うそだろう?」
「同じじゃないか」
遠くから見ているのでよくわからなかったが、どうやら開発したばかりの義手と博士の義手はそっくり同じものらしい。博士はみんなで開発する前に、自分でこっそり完成させていたのだろうか。
みんなの目が博士に集中する。理由を聞かせてくれという雰囲気の中で、博士が楽しそうに話し出した。
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