貴方は今笑っていますか?

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貴方は今笑っていますか?

「貴方は今笑っていますか?」  真っ昼間の住宅街。どこかチャラい雰囲気を醸し出している残念なスーツ姿の男が化粧っ気のない私に声をかけてきた。爽やかな笑顔はいいとして、十中八九、何かの勧誘だろう。面倒事は嫌。私は関心ないように「結構です」と答えた。  しかし、彼は不思議そうに首をかしげるのだ。 「笑ってます?」 「だから勧誘はけっこう…は?」 「いえ、僕は貴方に笑っていますか? と質問したんです」  勧誘でもヤバい系だ。直感で悟る。瞬時に満面の笑顔を貼り付けて「笑ってますよ」と答える。今の私には笑うことなど大した問題ではないのだ。まだ納屋の掃除ができてないからこんなところで時間を取りたくない。早く目の前から消えてほしかった。 「よかった」  念じたのがわかったのか、彼はすんなり通してくれた。なんなんだ。私は両手いっぱいに抱えた買い物袋を持ち直し足早にその場を去った。  もう二度と会うことはないだろう。そう思っていた。
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