つぎはぎの一滴

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 隣で高崎が顎に手を当てた。唇は少しとんがっている。分かりにくかっただろうか。基本は抑えられているのだから、応用のポイントだけ見つけられたら解けると思ったけど。高崎は自分で思っているよりもできるのだ。つまづいたポイントで、投げ出すのが少し早いだけ。 「……あ、分かった」  ほら。呟いたと同時に、高崎のシャーペンが滑らかに動き始めた。次々に数字と記号が並んで、行が増えていく。家系がどうこうなんて言いたくないが、地頭には多少なりとも影響があると思う。高崎の興味があれば、僕なんかが教えなくてもきっとできるだろう。  それに今日の高崎は、どことなく集中力に欠けている。さっきまで上向いていた唇もその証拠で、拗ねたようにも見える顔をする時の高崎は、人に分からないくらいではあるけど、少々調子が悪いのだ。 「――できた。どう?」  少しすると高崎がずいっとノートを押しやってきた。自習室に配慮して声は押さえているが、満足気な顔は正解の自信をたたえている。  僕はうっかり笑いそうになるのを、数式に目を落としてなんとかこらえた。解答集は個々で持っているのに、学校で作った作品を親に見せる子どものようだ。でも高崎らしい。 「あってる」 「やった。丸して丸」 「高校生」 「えーだってやる気出るじゃん」  ちゃっかり芯を出した状態で差し出された赤のボールペンに断れる要素が見つからず、僕はそれを受け取ってぐるぐると丸を書いた。
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