つぎはぎの一滴

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 これで高崎の気分が晴れるのならいいか。わずかでも楽しみを見つけていかないと、長く続く受験勉強はたまに、何もかも嫌になってしまう。  インクが赤い花を形作って、高崎が小さく笑う。 「何」 「ううん。ありがと」  にこにことされては追及する気も起きず、僕はボールペンを持ち主に返した。上がった視界の隅っこに、八時をまたいだ壁掛け時計が映る。 「帰る?」  高崎がボールペンをノックして芯をしまう。 「んー、そうだね」  帰らないのは不自然だ。だいたいいつも、僕はこの時間に帰る。少しくらい遅くなったところで誰にとがめられるわけではないけど、一度切れてしまった集中力はもどらないだろう。それに――いや、考えすぎかもしれないけど。こんな時間まで頑張ってるのね、と言われそうなことを想像してしまった。 「高崎は?」 「帰る。今日はこれができたからよし」  ざっと書かれたいくつもの丸の中に、僕が書いた花丸が一つ。問題集をこちらに見せびらかすようにしてから、高崎は手早く片づけ始めた。
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