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塾のドアをあけると、薄くなった空気はもう秋に染まっていた。隙間から入り込んでくる風は涼しく、もうそろそろ夏服でも寒くなるだろう。
比較的明るい駅前を背にして、レンガで舗装された通りを二人で歩いていく。塾と居酒屋が並ぶ数十メートルを超えると、民家と街灯の灯りだけになった。実際にシャッターは少ないが、実質シャッター街と言っても過言ではない。駅前通りなんて言って、田舎の夜なんてこんなものである。
「あー」
空を仰いだ高崎が、急に力の抜けた音を出した。
「お腹減ったー」
へろへろな声は今隣で倒れられても、さもありなんと納得してしまいそうだった。
「だね」
「ほんと?」
「本当」
期待の顔でのぞき込んでくる高崎を前に押しやる。
街灯に近づいて離れるたび、前に後ろにと揺れ動く影は高崎の方が少し長い。真っすぐに進む僕の影に、時折その影が重なって色を濃くする。オレンジのレンガとマンホール、横断歩道では白線を選んで行く影は不規則に揺れた。
昔も、こんなことがあった。
今でさえこれが普通だけれど、あの時の相手は高崎ではなかった。ふと思い出してしまったのは、昨日の夜からぽつぽつとメッセージをやりとりしているからだろうか。昼から返事待ちになってしまったスマートフォンがポケットで重さを主張した。
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