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軽く背中を叩かれ、我に返る。
「・・・・・・」「・・・・・・」
明るさがだいぶ劣ってきた部屋の中で、無言で見つめ合う。
呼吸を整えながら、真っ直ぐに見つめる藤堂に、俺は最後の力を振り絞った。
「・・・貴方を愛してます。」
「・・・馬鹿・・・」
顔を押さえながら呟く彼の指から、うっすら涙が流れる。
「・・・本当に馬鹿だよ・・・君は・・・」
涙を流しながら、どこか安堵したような顔で、藤堂は笑った。同時に、輪郭がだんだんとぼやけていく。
「藤堂さん・・・」
「・・・90点」
「え・・・?」
「君は・・・僕を満たしてしまった。君の言葉で。
僕がこの世界に存在する義務は、もうないみたいだ。」
声さえも、僅かな夕焼けのように、その一筋も消えようとしている。
「康太くん」
ぐっと手を引かれたと思うと、温かい感触が唇に触れた。
「っ・・・・・・」
時が戻るように、彼の体が光に包まれ鮮明になっていく。ブワッと自分の体も浮くような不思議な感覚の中、彼は俺の体をしっかりと抱いている。
全ての温もりを丁寧に感じ取りつつ 彼に身を委ねた。
やがて ゆっくり唇を離されると、彼は切なく笑っていた。
「愛しているよ。」
その瞬間 夕暮れ色によく似た光の粒が 藤堂の体を包み、誘うように窓の外へ流れていった。眩しい閃光は一瞬で消え、残されたのは一人佇む吸血鬼だった。
「・・・カッコ悪・・・」
慣れない吸血鬼姿を笑いつつ、視界が潤んでいく。
『・・・愛しているよ』
「・・・」
ふと握った手を開くと、名残惜しそうにオレンジ色の粒が残っている。まるで、彼がまだ俺を心配して離れられないように。
「・・・愛してます。貴方の世界も・・・貴方のことも。」
そう呟くと、粒は何かを見届けたかのように スッと溶けていった。
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