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「いっ!!・・・」
痛い と叫ぼうと藤堂を睨んだと同時に、その声は出せなくなった。
「君を食べちゃう気持ちでやるけどな・・・」
俺を見下ろして語る藤堂は 印象がガラリと変わっている・・・というより、別の人物のように見えた。
企む口元 真っ直ぐながら奥に吸い込まれそうな瞳 そこに窓から入るオレンジ色の光が加わり、一層不思議な雰囲気だ。
「・・・えっ・・・ちょっ・・・藤堂さんっ・・・?」
逃げ出そうとした足に、藤堂がまたがる。
「じっとして」
獲物を仕留めたような視線に、魔術にかかったように動けなくなる。
「・・・おいしそうだ・・・」
長くしなやかな指が胸元をスライドし、思わず息が上がってしまう。
「君は・・・首がキレイだから、ここからいただこうか・・・」
「やっ・・・やめっ・・・・・・!!!」
叫びたくても叫べない。藤堂はお構いなしに顔を近づけてきた。
駄目だ・・・俺・・・何かされる・・・ 恐怖心から目を瞑った。
しばらくすると 横でクスクスと笑い声が聞こえた。
「・・・?」
「ビックリした?」
「・・・!!」
ようやく事の意味を理解できた俺は、本気で逃げようとした申し訳無さと羞恥で、向き合うことが出来なかった。
「襲われると思ったでしょ?」
「は・・・はい・・・」
この男は全てを見通している。俺は観念して正直に答えた。
「でもね。今の気持ちが大事なんだよ。」
俺の体から降りながら、藤堂は手を伸ばす。
「今の君の表情は、紛れもなくホンモノだ。練習の時も、そうすればいいのに。」
押し倒された衝撃で上手く起き上がれない俺は、その手に甘えてしまった。
「・・・感情なんてさ」
崩れた髪の毛を整えながら、藤堂は呟いた。
「分かろうとするから分からなくなる。余計な憶測が生まれる。表情 動き 言い回し 全てが不自然になる。それが君の現状なんだよ。」
『表情が硬い』『動きが合っていない』『イントネーションが定まっていまい』
これまで受けた指導には、内心「じゃあどうすればいいんだよ!」と反発するだけだった。結局自分も納得していなくて、苛立ってしまうのが常であることを、藤堂は見抜いていた。
「康太くん。ソードは君なんだ。」
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