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藤堂の魅惑的な視線に、必死にくらいつく。
「僕の世界においてソードは君。君しかいない。他の誰でもない。」
やや抽象的な助言も、心臓の奥深くに染み込んでいくように感じた。
「・・・はい」
「じゃあもう一度。同じところを。」
藤堂は再び台本を手にとった。電気をつけなければ細かい文字が読めなくなってしまうくらい、夕日が眩しい。
ソードは俺自身・・・同じことを頭の中で繰り返す。吸血鬼の俺は・・・目の前のリリアを・・・藤堂を、どうしたい・・・?
「『・・・リリア・・・僕の話を聞いてくれ・・・』」
「『ソード。あなたの身の上話はもう沢山。』」
藤堂は顔を背けたので、俺はもう一度向き合いたいと思い、彼の頬に手を伸ばし、その顔をこちらに向ける。ほのかにオレンジ色を纏った顔は、リリアの表情だった。
「『・・・とても・・・大事な話なんだ』」
「『大事って??恋人との約束を放っぽって謝罪なし?ほんと笑っちゃう』」
小馬鹿にする彼女・・・いや彼の顔を見ると、様々な感情が膨れ上がった。
見捨てないで・・・弱々しい願いで、俺は藤堂の胸元に顔をゆっくりうずめてみる。ふくよかさは無いが、ほんのりと温かく心地よい。
「『・・・ごめん・・・もう駄目だ・・・』」
「『・・・駄目って?』」
セリフが飛んできた所で、彼の顔を見上げた。
「『・・・君の血がほしい』」
「・・・50点」
何かが剥がれたような藤堂の声にハッとし、俺は彼の胸元から素早く離れた。
リリアの面影を完全に消し去った藤堂は、フッと笑った。
「さっきよりだいぶ良い。明日もそれで行きな。それじゃ 僕はこれで。」
「あ・・・ありがとうございます・・・」
荷物をまとめる彼の背中に頭を下げると、彼は捨てるように言った。
「ここはゴールじゃない。勘違いするな。」
ガチャッ・・・ほのかな夕焼けに染まった壁に吸い込まれるように、彼は部屋を出た。
その僅かな光も消える頃、俺は、また一人ぼっちになった。
さすがは原作者だなぁ・・・居なくなった彼の余韻にいつまでも浸るように、俺は呆然とドアを見つめていた。
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