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頭も、目の前も真っ白になる。
死んでる・・・?彼が・・・?
「そっか・・・カナトくん まだいなかったもんね。」
女優は申し訳無さそうに声を潜めた。
「4年前ぐらい・・・かな・・・。この作品書いて、藤堂咲夜 自殺したの。それで公演が一旦延期になって・・・。」
当時の状況をこと細かく説明してくれたが、俺の耳にはほとんど入らなかった。
俺に背を向けたまま、映像を一時停止したかのように藤堂は動かない。
「・・・藤堂さん・・・」
俺はもう一度呼びかける。
すると、藤堂はこちらを一瞥し、スタジオから走り去った。
「藤堂さんっ!!!」
俺は何が起こっているのか分からず慌てる女優を置いて、彼の後を追った。
「藤堂さん待って」
「ついてくるなっっ!!!!!」
怒号とも呼べる大声に、体の力が入らなくなる。
「・・・君とは違うんだよ・・・僕は・・・」
今にも消えてしまいそうなくらい弱々しい声で 彼は頭を抱えた。
「・・・自分の思うままに 好きなものを書いて書いて書き続けて・・・でも・・・満たされなかった・・・。どれだけ話の世界を愛していても、終わりのページを迎えればそこで終わる・・・。終わった世界は忘れ去られ、望まれた新しい世界を作って、何処かの知らない誰かが幸せになって、自分には何も返ってこない・・・見返りを求めるようになってしまった・・・」
独白を重ねる藤堂の顔は、全体に影を纏ったように暗く、虚ろだった。そのうち、藤堂の体が夕日に照らされる・・・というより、目の前から藤堂が消えていくように輪郭はぼやけていく。
「藤堂さ・・・」
「・・・疲れたんだ・・・もう・・・」
言葉一つ一つも、はっきりと聞こえなくなってくる。
「・・・藤堂さんっ・・・!!」
周りの目を気にせず叫んだ時には、もう彼はいなかった。
距離をとって軽蔑するような周囲の視線と、何も出来なかった自分が、ただただ情けなかった。
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