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藤堂は、たった一人で戦っていたんだ。
電気だけが灯り、もぬけの殻と化したスタジオの隅で、俺は体を縮める。
『舞台が嫌いになった時 君は潰される。』
・・・あの言葉、本当は自身に向けたんじゃないのか・・・?
『・・・君とは違うんだよ・・・僕は・・・』
彼の気持ちを知らず、俺は自分のことしか見えなかった。
『分かろうとするから分からなくなる。』
・・・分からない・・・分からないよ・・・自分でない誰かの望みなんて分からない・・・分からない・・・
「・・・どうすりゃいいんだよ・・・。」
何処にも向けられない怒りと嘆きが混沌とし、吐き出された。
『どれだけ話の世界を愛していても・・・』
・・・彼が愛していた世界・・・彼が愛していたのは一体何だろう。
夕日の余熱が残る床に寝転んでみる。
色彩がないキャンバスのような天井は、あの時を鮮明に思い出させてくれた。
彼に押し倒された感覚
夕暮れに照らされた 幻想的な表情
体の奥まで丁寧になぞられたような感触
彼が愛していたのは・・・
「・・・明日 逢えるかな・・・」
確証なんて何処にもない。
ただ 彼は 決まって夕方に現れる。もしもそれが彼と逢える条件だとして、また逢えるなら・・・確かめたいことがあるのだ。
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