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夕暮れ
「・・・やっぱり来てたんですね。」
彼はあの日と同じように壁にもたれかかっていた。空気が澄み、一段と鮮やかな夕暮れが、何を考えているのか分からない横顔をうっすらオレンジ色に染まる。
「表現者として嫌じゃないの?」
そっぽを向いたまま、突っぱねるように藤堂は尋ねる。
「僕は、無責任に期待して死んだ・・・最低な作家だ」
「・・・こっちを向いてください。藤堂さん。」
俺の呼びかけに、藤堂は嫌々こちらを向いた。
「・・・・・・っ康太君?」
「ソードです。・・・初めてですよね、衣装見せるの。」
赤いマントをはらせながら、俺は藤堂に近づいた。
「・・・何で・・・」
「藤堂さん。僕、あの後考えました。あなたが何を愛していたのか・・・」
身を屈めて藤堂と対峙する。目を合わせようとしない藤堂だが、その頬が夕焼けの効果だけでなく、ほんのり赤らんでいるのが分かる。
「あなたは、物語を愛した。誰よりも ずっとずっと愛してたんです。そして同じように、あなた自身も愛されたかった・・・違いますか?」
「・・・言ったところで何が分かる・・・」
「分かりません。僕はあなたの心には入れない。」
「偽善者ぶるなっっ・・・」
「でも」
振り切られようとした瞬間、ほぼ無意識のうちに、俺は藤堂の肩を押さえた。
「僕は あなたを愛したいです。ソードとして・・・僕自身として。」
昼でも夜でもない空間の中で、互いの呼吸音だけが聞こえる。
俺はすぅっと息を吸い込むと、何度も練習した言葉を放った。
「・・・あなたの血を下さい 藤堂さん・・・」
「っ・・・///」
藤堂は何も喋らない。
その代わり、戸惑うようにゆっくりと俺の体に腕を回す。
そのまま俺は、押し倒す形で覆いかぶさった。
無造作な髪をなぞると、彼の端正な顔が見える。その動揺と興奮が入り交じる複雑な表情は、吸血鬼を虜にするような美しさだった。
ヒクヒクと動く首筋に、唇でゆっくり噛み付く。
「っ・・・///」
藤堂は、目を瞑ったまま声にならない声を上げた。回された腕の力が少し強くなる。
俺はそのまま 長い接吻をするように、彼の首に唇を当て続けた。
「・・・っ・・・っ」
「んっ・・・・・・」
血を吸い取るように唇を動かす度、小さく呻く声が聞こえる。だが、その表情はワインレッドに変わった柔らかな光を帯び、恍惚としていた。
愛してくれたのに、愛されなかった貴方。
敬愛と愛情の意を込めて噛みつきたい。
俺は自分の意志で動いているのか、ソードが憑依しているのかさえ分からない。
でも こうしたかった。
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