百合小説ならば。

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 私が初めて千和(ちより)と会った時のこと。  時期は覚えているけれど、自分がどんな気持ちだったかは覚えていない。  それくらい一緒に居るのが当たり前の存在なのだ。  月曜日。  週が明けてまた学校が始まる。 「おはよ住乃(すみの)!」  私がドアを開けると元気いっぱいの声が飛んできた。 「千和おはよー……あーあ……」 「どしたん?」 「いやさぁ毎日学校ばっかで疲れたよぉ……やっと休みになったかと思ったらまた学校始まるしさ……」 「分かるわ〜マジ授業面倒よな」 「はあ……」  千和は少し考えてから言った。 「そうだ、今日学校終わったらハッピーバーガー行こうよ!ハンバーガーの為なら何でも乗り越えれるっしょ! ガールズトークに花咲かすのもグッド?」  ……申し訳ない。 「ごめん、放課後はもう用事が入ってる……」 「う〜……そっかぁ」  千和が首を傾けるとサラサラなロングヘアが揺れる。  私と彼女の髪質って似てるし、私も伸ばせばあんな風になれるのかな……? 「じゃあどうしよっかなぁ」  私がどうでもいいような事を考えている間も、千和はまだ私の為に考えを巡らせてくれていたようだ。 「いや、ありがとね!千和が心配してくれたってだけで私嬉しい。元気出た!」  でも。 「いいやっ大好きな住乃の為だもん、何でもいいから私、力になりたい!」  面倒見が良い千和は引き下がらない。 「え、あ、そう? じゃあ、どうしてもらおうかな……」  そして私も、満更でもない。 「ん〜???」  せっかくだしなぁどうしようかなぁ……って考えていたら。    もちっ  千和が私の頬を、もちっと押してきた。  !?!? 「へへへ、マシュマロみたいで可愛かったからさ?」  百合ものの小説なら、ココからイチャイチャ展開だろう。 「ちょっと、じゃなかった、千和やめてよそれ、もう私高校生だよ? 娘に自分のことを下の名前で呼ばせて、しかも毎日毎日飽きもせず娘可愛い〜って言うの、いい加減キモいから。……ごちそうさま」 「住乃……」  千和の絞り出すような呼びかけを無視して、私はに向かった。    鏡に映ったムッとしてる自分の表情を見て……。  キュッと取り繕った口元が思わず(ほころ)んでしまう。  千和ごめんね、そしてありがとう。  千和のちょっとしつこいくらいの思いやりとお茶目な行動のおかげで、私は面倒くさい学校に行く元気が出るんだ。  素直に気持ちを伝えられないけれど感謝してるんだよ。  さあ今日も学校行きますか! 「……行ってくるね千和」  どれだけ彼女に無愛想な態度を取っている時でも、私は千和の名前を呼び続ける。  これが私なりの恩返し。  気持ちが伝わったらいいな……
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