プロローグ

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0 「N先輩! 机の上にこんな原稿がありましたよ!」  七条君が俺にプリントアウトされたレポート用紙の束を渡してきた。タイトルは「彼女が泣いた理由」。 「名前は?」  俺の問いに七条君は首を振った。 「いや、それが名前が書いていないんですよね。名前を書く欄があるのに空白になっています」 「ふーん……」  じゃあ、匿名希望ってことかなと俺は思った。別に珍しい話ではない。ここ、推理小説研究会では持ち回りで自作のミステリーを読んで、各自推理したり、批評したりといった機会が設けられている。そして、時々、自分の名前やペンネームを明かさずに部室に勝手に置いて行って、誰かに解いてもらうという部員も居る。何故なら、その場合は「その小説を誰が書いたのか」ということも推理の対象となるからだ。 「じゃあ、早速、読んでいくか……」  俺は最初のページに目を向けた。出だしは「―――午後6時」から始まっていた。  
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