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そもそもこれは中川のものであって侑人のものではない。
……そこまで考えて、侑人ははっと顔をあげた。
「狐太郎、悪い。それはな。マネージャーさんのものなんだ。」
嘘はついてない。
現にこれは中川の私物に間違いはないのだ。
侑人の言葉に狐太郎の表情がゆがむ。
「マネージャー?……前におじさんと一緒にいた中川っておじさんのこと?」
「よく覚えているな!あの中川さんだよ。」
結子と一緒に侑人が出演した子供向けの舞台を見に来た時に一度控室で会ったきりではないだろうか。
よく覚えていたなと侑人は感心していたが、狐太郎は面白くなさそうに「……そんなに仲良かったんだ。」とぼそりと呟き、舌打ちをした。
「ねえ、おじさん俺と昔した約束覚えてる?」
急に話が変わり、侑人は思わず間抜けが声を上げてしまった。
中川の話から急に出た『約束』が何か分からず、ポカーンとしていると「大きくなったら、おじさんが結婚してくれるって」と、少し顔を伏せ狐太郎とは小さな声で言った。
「あの頃のコタは女の子みたいに可愛かったからな。そんなこと言ったな」
狐太郎があまりにも結子にそっくりなかわいい子だったために、侑人が女の子と勘違いして言った約束。
侑人自身は言われるまで忘れて……いや、記憶の奥底に埋めておいたものだが、狐太郎はちゃんと覚えていたらしい。
出来れば忘れていてほしかったなどとは、さすがに言えずただ目線を逸らした。
その隙を狙い、狐太郎は侑人の手を強引につかみベッドの方に引き寄せた。
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