役者、侑人は喘ぎたくない

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 舞台やドラマでの出演を夢を見ていた侑人からしたら、納得できる仕事ではないことぐらいは中川だって知っているはずだ。 「声のお仕事だって、立派な役者のお仕事だよ。しかも俳優とかじゃなくて声優を目指すって若い子はすごく多いんだから。」  マネージャーは困惑した表情の侑人に対して、子供に言い聞かせるかのように優しく諭しだした。  一周回って気持ち悪いくらいである。  なにより、侑人は大事なところをはぐらかされているのが一番気に入らなかった。 「中川さん!百歩譲って、声の仕事ってのはいいです。でも、その、びいえ……。」 「BL、ボーイズラブ……男性同士の恋愛模様を描いた年齢制限のある作品だよね。」  言いどもる侑人が恥ずかしくなるほど、中川はあっさりと言葉にしてしまった。  そうだ。  侑人に指名できた仕事というのは、いわゆる濡れ場ありの男性同士の恋愛を描いたボイスドラマ、BLモノだ。  声の仕事ということも納得できているわけではないが、役者としての仕事とあれば侑人は全力で受けるつもりだ。  だが、まさかBL作品に出演することになるとは……さすがに躊躇する。 「男性同士の恋愛模様に惹かれる女性は多い、人気のジャンルだ!今売れている声優さんたちも通ってきた道だぞぉ。」 「俺は声優じゃなくて、役者志望なんですが……。」  眼鏡を輝かせ、力説する中川に侑人は半分呆れた。  全く仕事のない若い奴らなら受けると言いそうなやつが何人か浮かんだが、役者だけでは飯は食えていないとはいえ侑人は小舞台などで仕事をしている。 「今のところ、小舞台のしがない役しかないくせに何をいっているの。君の声を気に入ったと言ってくれた人がいたんだ。声の仕事は初めてってわけじゃないんだし受けてみなよ。」  確かに、一度だけ侑人は声の仕事をしたことがあった。  何年も前の話だが、子どもたちに人気のアニメにて一回ぽっきりの登場キャラ役。  親友の子どもがメインキャラより好きだと言うのを聞いたとき、声の仕事も悪くないなと少しは思ったこともある。
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