役者、侑人は喘ぎたくない

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 中川も何の実績もない人間にむやみに仕事を押し付けているわけでないことを理解しているのだが、やはり侑人は素直に首を縦に振ることができなかった。 「つか、これ……俺が、その……」 「侑人くんが受け、つまり入れられる側だよね。」 「少しオブラートに包んでもらってもいいですかねぇ!?」  どうしても侑人が納得できなかった問題は、自分が女役であることだった。  確かに自分の声は少し高く響く声。  良く言えば『舞台映えする声』悪く言えば『やかましい声』とよく言われていた。  中川にも『啼かせがいがある声だよね』と、冗談で言われていたこともあったが、本当にそんな仕事が来るとは……。 「40過ぎたおじさんが恥ずかしがるなよ。今更だろ?」 「歳とか関係なくデリカシーとかそういう問題だと思いますよ。」  確かに飲みの席でもソッチの話が出て盛り上がったりもする。  中川とも行けばそういう話は出ることもあるが、素面で言われるとさすがに抵抗がある。  仕事ではそこそこ長い付き合いにはなるが、未だに掴めない部分が中川にはあった。 「若い男の子に突っ込まれるなんて貴重な体験そうそうないんだから」 「待って!声の仕事ですよね!?実際には突っ込まれないですよね!!?」  冗談じゃないと真っ青になる侑人の必死の形相がよほど面白かったのか、中川はケタケタ笑った。 「言葉の綾だよ。侑人くんは真面目だなぁ。実際じゃなくても今売れ始めている若手声優くんに突っ込まれて売れるなら安いもんだと思うけどねぇ」  どうやら、何を言っても無駄のようだと侑人はあきらめ、自分とほとんど歳の変わらないはずの男を睨んだ。
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